90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

ユルさへの全力疾走。

【#022 アジアの純真 / PUFFY (96年)】 の考察 /2019.03.14_wrote

奥田民生プロデュースのユニット、Puffyの鮮烈なデビューをミリオンヒットで飾った曲。
いきなり出演を果たしたCM「天然育ち」の曲でもあり、この年、PUFFYはレコード大賞・最優秀新人賞を獲得した。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<ユルさに、全力

 

f:id:takuyasasaya:20190227141203j:plain

 

96年。
小室サウンドによる高音を駆け上がる旋律や、
沖縄アクターズスクール出身アーティストなどによる
キレのいいダンスなどがJ-POP界を席巻していた頃。

 

坂道を全力で駆け上がる全力坂のごとく

各アーティストが全身全霊で想いを込めたパフォーマンスを繰り広げる中、

同じ坂をゆったりたららんと歩いて登るかのごとく

拍子抜けするほどに気取らないアーティストが誕生した。
それがPUFFYである。

 

折しも音楽番組としてHEY!HEY!HEY!の絶頂期。
ジーンズにTシャツ、双子のようなルックスに加え、
周囲のアーティストたちの対極とも言えるその力みのない振る舞いや、
ゆるやかで気さくでユーモアに富んだトークは
「自然体」「脱力系」と評され、幅広い支持を獲得していった。

 

パワー勝負一辺倒の試合の中で、
サッカーで相手を交してさっとループシュートを放つような力の抜け方。
この「自然」「脱力」というのはそう簡単にできるものではない。

 

続きを読む

「好き」と「売れる」の狭間に

【#021 ガッツだぜ!! / ウルフルズ (95年)】 の考察 /2019.03.7_wrote

ウルフルズが国民的人気アーティストになるきっかけとなった9枚目のシングル。
KC&the Sunshine Bandの「That’s the way」をベースにした
キャッチーな楽曲とプロモーションビデオで、大ヒットを記録した。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<ちょんまげ姿とダンスビート

 

ガッツだぜ パワフル魂
ガッツだぜ すいもあまいも
ガッツだぜ Do the ど根性
男は汗かいて ベソかいて GO!

 

 

ちょっとふざけたダジャレのような歌詞。
あくまで日本語読みのカタカナ英語。

 

デビューから低迷していたウルフルズの勝負の1曲は、
起死回生の大ヒットを記録し、
その存在は国民的に知られることになった。

 

そして、
多くの国民に記憶されるきっかけとなったのが
ちょんまげ姿のトータス松本の姿だろう。

 

www.youtube.com

 

画期的MVだった。


ちょんまげ姿とダンスビートのミスマッチ。
吹き矢で倒れたトータス扮する殿様が、
「ガッツだぜ」の連呼で起き上がるくだらなさ抜群のコメディっぷり。

 

突拍子もない世界観でありながら
なんともウルフルズらしさを存分に感じるから不思議だ。


クールにカッコつけることへの照れを
ユーモアやおふざけでごまかしながらも、
その芯にある熱い思いをパワフルに歌い上げるウルフルズの楽曲。

 

関西人気質の人間味と音楽への情熱。


竹内鉄郎演出によるこの一見悪ふざけにも見えるこのMVは、
そんな言葉に置き換えづらいウルフルズの魅力を、
見事に体現しているように思える。

 

 

 

 *************************************************

 <ウルフル大作戦 〜「好き」と「売れる」の狭間に>

「ガッツだぜ」の大ヒットで国民的バンドになったウルフルズだが、
この9作目のシングルに至るまで、
デビューからの道のりは決して順風満帆ではなかった。

 

1stシングル『やぶれかぶれ』はチャート圏外、
1stアルバム『爆発オンパレード』は、発売から数ヶ月で廃盤。
クビ寸前のウルフルズを支えたい事務所のタイアップ要請とバンドの思惑との乖離など、事態は困窮していたようだ。

 

続きを読む

アルバムに見る世界観。私的名盤5選/PART01

【interlude #002】 /2019.02.28_wrote

このブログでは主としてシングル曲(1曲)ごとに記事を書いているが、
今日はアルバムについて書いてみたい。

 *************************************************

<アルバムに広がるアーティスト世界

 

飲みの席での話を現実にすべくブログを始めてみて、20件ほどの記事を書いてきた。

 

「90年代のJ-POPを1曲ごと記事にしてアーカイブ化する。」
そんな勝手な志を掲げてしまった手前、
感想を書くのにも事実のリサーチに追われたり、
不慣れな堅苦しい文章を使ってみたりと自分の首を締め、
一体何をやってるんだろうと思いながらも楽しくやっている。

 

さて、
このブログは主として90年代を彩ったシングル曲を取り上げているのだが、

90年代は、ミリオン、ダブルミリオンとシングル曲が派手にチャートを賑やかす一方で、
「アルバムこそが、アーティストの表現したい世界観を表すもの」という図式があったように思える。

 

目まぐるしく移り変るシングルはレンタルをして知り、
より深く知りたいアーティストのアルバムを買う。

 

シングル1枚=1000円。(2曲入り)
アルバム1枚=3000円。(10曲~)


という曲数的なお買い得感があることも否めないが、
同時にそれは「ハズレを引いたらシングル以外捨て曲ばかり」というハイリスクな買い物である。

かく言う筆者も中学生時代は、
どのアルバムを買えば失敗しないか?
そんな目線でアーティストの表現する世界観を嗅ぎ取ろうと努力していた気がする。

 

そんなわけで今日は
・アルバムで表現しているアーティストの目指す方向性
・アルバム全体を通した構成/世界観表現
・時代とのマッチング/ヒットしたかどうか
をベースに、
「筆者が勝手に選ぶ90年代を飾る私的名盤5選PART01」を紹介したい。
(ベストアルバムは除く)

 

 

 *************************************************

  <勝手に選ぶ90年代を飾る私的名盤5選PART01

 

01/「勝訴ストリップ」椎名林檎 00年

 


前作『無罪モラトリアム』が爆発的ヒットを続ける中、
罪と罰・ギブス・本能のシングル3枚を入れ込んだ意欲作。
無罪モラトリアムが「MM」であることに対する「SS」のアルバム名。
7曲目の罪と罰を中心に1曲目の虚言症から13曲目の依存症までシンメトリーな曲名の並び。
アルバム55分55秒というこだわりっぷりで、
アルバム全体を通じてひとつの世界を表現したいという椎名林檎の想いが伝わってくる。

 

続きを読む

大人の色気と普遍性

【#020 接吻 -kiss- / ORIGINAL LOVE (93年)】 の考察 /2019.02.21_wrote

渋谷系の代表格と謳われたORIGINAL LOVEの5枚目のシングル。
91年のメジャーデビュー前からその音楽性に対する評価は高く、
田島貴男は90年まで小西康陽の誘いでピチカートファイブの2代目ボーカリストも掛け持ちしていた。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<大人の世界の片鱗

中学生時代。
姉の部屋に一枚のCDがあった。
「SUNNY SIDE OF ORIGINAL LOVE」

 

f:id:takuyasasaya:20190221175150j:plain

 

 

セピア色の写真の中で、
それまで筆者が知っているような、
テレビでワイワイと派手に騒ぐアーティストとは違う、
長身のシティーボーイがこちらをすっと見て立っている。

 

自分の部屋に移動し、CDを再生してみる。
あらゆるジャンルにルーツを持つ田島貴男のセンスが、
わかりやすいヒット曲ばかり聴いていた耳にガシガシ押し迫る。

 

渋谷系という言葉など露知らず、
オリコンチャートの上位に入るヒット曲しか知らない筆者にとって、
その出会いは大人の世界の片鱗を覗き見するような感覚だった。


そんな世界の入り口として、
ポップで耳馴染みのいい挨拶がわりの一曲がまさにこの曲、接吻だった。

 

www.youtube.com

 

長く甘い口づけを交わす

深く果てしなく あなたを知りたい

fall in love 熱く口づけるたびに

痩せた色の無い夢を見る

 

 

都会的で、知性的で、艶っぽい。

うまく咀嚼はできなかったが
それは初めて飲むエスプレッソのような味わいだったように思う。

    

 *************************************************

 <大人のキスとおしゃれな賢者タイム>

接吻・・・。
言葉の意味は誰しもがわかるのに、
この曲がなければなかなか聞くことのない言葉だ。
歌詞にも出てこないこの言葉こそが、
普通のキスとは違う、大人の世界に誘うのだ。

続きを読む

「才能」と「自然体」のバランス

【#019 Heaven’s Kitchen / Bonnie Pink (97年)】 の考察 /2019.02.1_wrote

Bonnie Pink(現在は大文字表記)の4枚目のシングルであり、トーレ・ヨハンソンのプロデュースでの2枚目のシングル。
自身初のオリコンチャート入りを遂げることになるこの曲、実は本人が生まれて初めてつくった曲と言われている。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<椎名林檎も嫉妬する才能

f:id:takuyasasaya:20190213203033j:plain

 

名前があって

そこに愛があって

たとえ一人になっても

花は咲いている

 

 

97年。
ラジオのパワープレイ。
一撃でノックアウトされた。

 

時折気だるく吐き捨てるような台詞調の英詞。
不安定に上下し歌い終わりに下がる音階。

同じ国の文化に触れて育ったとは思えないほど、
自由で異質なその音楽に戸惑いすら覚えた。

 

それがBonnie PinkのHeaven’s Kitchenである。

 

真っ赤な髪色のショートヘア。
誰にも媚びない強烈な個性。

 

「自分のやりたいことを先にやられてしまった」
と椎名林檎がデビュー前に語ったとされるその才能は、
邦楽の域を軽々と越えているように思えた。

 

www.youtube.com

 

 

Heaven’s Kitchenは
危険地帯Hell’s Kitchen(そこに迷い込むと身ぐるみはがされ
何もかも食べ尽くされてしまう)の対義語としてつくられたらしいが、
そんなことは当時ティーンの筆者としては知るはずもなく。

 

「最初は何を歌っているかすらわからない歌」なのに、
耳が放っておくことができない。そんな強い引力があった。

 

しかし、20歳ちょっとで人生初めてつくった曲がこれってどんな才能だ…

 

 

    

 *************************************************

 <天才と繊細と>

 

経歴を調べると面白い。

 

学園祭で、部活の活動実態が必要だからという理由でバンドを組み、
そこから人づてに噂が広まりデビューし、
他人の書いた曲の中に自分に合う曲がないという理由で作詞作曲を始めた*1

というのだから、
これを才能と言わずに何と言おう?

 

続きを読む

アンバランスな魅力とガールポップ

【#018 Over Drive / JUDY AND MARY (95年)】 の考察 /2019.02.0_wrote

92年にデビューし、2ndアルバム「ORANGE SUNSHINE」のスマッシュヒットで
メジャーシーンに躍り出たJUDY AND MARY7枚目のシングル。初のオリコンチャートTOP10入りを果たした。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<軽音楽部の理想イメージ

f:id:takuyasasaya:20190207211005j:plain

 

 

ちょっとワルくてちょっと健全。
ちょっとパンクでちょっとロック。
そして、どこまでもポップ。

当時中学生だった世代にとって、
JUDY AND MARYは、
存在そのものがファッションアイコンだった。

 

走るー 雲のー 影をー

飛び越えるわ

夏のにおい追いかけて

 

blog.naver.com

 

無骨な白いつなぎの中に見えるヒョウ柄の水着。
そして時折見せるサングラスやヘルメット姿。

f:id:takuyasasaya:20190207210818p:plainf:id:takuyasasaya:20190207210830p:plain

 

中学生の勝手な想像だが、
専門学校の文化祭前のような楽しさや、
男女仲良い軽音楽部の理想イメージが、
MVの中から圧倒的なエネルギーで迫ってくる。

 

そして、その中心にいるのがボーカルYUKIだ。

 

ボーイッシュさと少女性のアンバランスが見せる、
ちょっと悪戯好きでやんちゃな気まぐれ感。

 

オタサーの姫的存在の上位互換を
数億回繰り返してもたどり着かないであろうと思えるくらいに、
バンドの中で、紅一点のボーカルは
どこまでも自由闊達で、歌手の域を超えてチャーミングだった。(今でもですけど)

 

 


余談だが、筆者がJUDY AND MARYを知ったのは、
Over Driveの1枚前のシングルに収録されている自転車が
明治製菓「ポイフル」のCMに使われていたからだ。

www.youtube.com


ここから25年・・・いやはや、ブレない。

 

続きを読む

純朴アーティストの日本語感覚

【#017 冬がはじまるよ / 槇原敬之 (91年)】 の考察 /2019.01.31_wrote

3枚目のシングル、「どんなときも。」の爆発的ヒットで一躍時の人となった槇原敬之の4枚目のシングル。
サッポロビール「冬物語」のCMソングとして使用され、以降時代を超えて定番の冬ソングとなっている。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<純朴アーティストという特異性

91年。
ロックは不良のやるもの。
そんな時代は終わりを告げようとしていたが、

それでもアーティストというのは、
オシャレだったり、カッコつけてたり、少しチャラい印象があったり、
どこかウェイウェイしている雰囲気や
なんかスクールカースト上位イメージというか、そういう節があった。

 

「どんなときも。」のヒットによる槇原敬之の登場は、
飼育係のメガネくんが突然マラソン大会でトップを取るような衝撃だったように思う

 

f:id:takuyasasaya:20190131194943j:plain

(大ヒットしましたね)

 

そして、大ヒット収まらぬ中、リリースされたのがこの曲である

 

www.youtube.com

 

8月の君の誕生日

半袖と長袖のシャツをプレゼントしたのは

今年の冬もそれからもずっと僕らが

一緒に過ごせるためのおまじない

 

 

何だろう。

槇原敬之の純朴100パーセントの声から放たれる純朴100パーセントの歌詞。

きっと筋斗雲にも乗れるであろう心の清らかさ。

こんな健気な歌を歌う男性は

アーティストという人種のイメージにはなかったのだ。

 

 

そもそも、こんなヤツ実在したら、

女性としてはちょっと引くんじゃないか・・・と思ってしまう。

 

「ねぇ、エミは誕生日、彼氏に何もらったの?」

「えっとぉ、半袖と長袖のシャツ」

「えー何それ?笑」

「なんかぁ、冬もその先も過ごせるためのぉ、おまじない?だって」

「お・ま・じ・な・い~?(爆)」

続きを読む

3人の掛け算によるタイムレスな音楽

【#016 Swallowtail Butterfly~あいのうた~ / YEN TOWN BAND (96年)】 の考察 /2019.01.24_wrote

96年公開の岩井俊二監督映画、「スワロウテイル」に登場する無国籍バンドの曲。
映画の登場人物名義による発売ながらシングル、アルバム共に週間チャート1位を記録するなどの現象を起こした曲。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<10代だけに刺さる特殊な言語

飛び交う中国語。英語。カタコトの日本語。
目を背けたくなるような暴力。痛み。貧困。
エキゾチックでありながらも郷愁感漂うディストピア。

 

R-15指定をギリギリクリアして見た世代としては、
映画「スワロウテイル」の衝撃は凄まじかった。

 

f:id:takuyasasaya:20190121190357j:plain

 

邦画とは思えぬ大きな世界観。
全体に浮遊するどこか懐かしい匂いのする気怠さ。
時々、目を背けたくなる重々しさを持ちながらも、
それでいて、10代に刺さる、圧倒的なカッコよさ。

 

おそらく、映画を観た年齢によって受け取り方は大きく異なるだろう。


映像のトーン・キャスト・美術・ストーリー。
すべての要素が若者だけに伝わる言語で、迫ってくる。
逆説的だが、若者以外はわからなくていいと突き放した表現ともとれるこのカルチャー感が、
10代に圧倒的密度を持ったものとして押し寄せるのだ。

 

その中でも、
この映画における音楽の存在はあまりにも大きい。
世界観を決定づけるSunday Parkのギターに始まり、
そしてエンディングのSwallowtail Butterfly~あいのうた~ まで。
この映画はある種ミュージックビデオとストーリーが合体したような形で進行していく。

 

www.youtube.com

 


そういう意味では
岩井俊二&小林武史の二人の世界観による映画と言ってもいいだろう。

 

Love Letter、打ち上げ花火とヒットを重ね、
気鋭の監督として注目を集め始めた当時33歳の岩井俊二。
破竹の勢いでヒットを飛ばすMr.Childrenのプロデューサーとして注目を浴び、
前年にMY LITTLE LOVERを立ち上げ自らも表舞台に参加した36歳の小林武史。

 

岩井俊二の作るファンタジーの中にあるリアリティ。
小林武史の作るキャッチーさと哀愁。
まさに若者文化を代表する二人の感性が混ざり合い、
YEN TOWN BANDは、
映画の枠を超えて羽ばたいていったのだ。

  

 *************************************************

 <Charaという楽器>

 

映画の中のグリコが、現実世界ではCHARAという歌手であったり、
映画内で他にかかる音源がMY LITTLE LOVERの音源だったり、
劇中のCMがクリスペプラーの声によるそれっぽさだったり。

 

続きを読む

アイドルとビジネスの距離

【#015 LOVEマシーン / モーニング娘。 (99年)】 の考察 /2019.01.17_wrote

ASAYANの企画の派生からデビューしたモーニング娘。7枚目のシングルであり、
後藤真希が第3期で加入した直後のシングル。グループ初のミリオンヒットを記録した。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<アイドルと楽曲の距離感

ASAYAN、中期。
番組自体もオーディション企画が続くことで
人気はあったがややマンネリの兆しが見え隠れし、
デビューこそ大成功だったモーニング娘。(以下モー娘。)も、
リリース曲ごとに次第に順位を下げていた頃。

f:id:takuyasasaya:20190117191318j:plain

テコ入れが必要だったのは確かだろう。
それが、新メンバー後藤真希の加入及びセンター抜擢であり、
この楽曲、「LOVEマシーン」である。

 

にゃお〜~~~~ぉおん!

 

なんという出だしだろうか。
正統派アイドルとしてデビューした「モーニングコーヒー」のイメージからは
到底想像できない悪ノリっぷりである。

www.youtube.com


ダンスというにはあまりに滑稽なポージングに近い「踊り」。
歌詞というには経済用語と恋愛を無作為に乱立させただけのように読める「言葉」。
そして、ひと世代前を彷彿とさせる「ディスコミュージック」。

 

正統派アイドルから突如ブチ放たれる、勢い任せのカオス。

 


MVがテレビから流れたのを見て、
最初は「ぽかーん」となった人がほとんどだったようであろう。
情報量の込み入り具合が、脳の処理速度を超えているのだ。

 

しかし、まさにそこがつんく♂の狙いだ。
よくわかる直球な王道ソングは、勢いに乗っている時こそヒットしやすいが、
停滞している流れの中でノイズを高め注目度をあげるためには、「魔球」しかない。

 

魔球に必要なのは、アイドルと楽曲の距離感である。

到底アイドルソングとは思えない、
アイドルイメージから数万光年離れた距離にある楽曲を作り上げることこそが、至上命題だったに違いない。

結果、

モー娘。の起死回生の起爆剤として
世に放たれたこの奇妙奇天烈摩訶不思議な組合せの楽曲は
世紀末、低迷する日本すら揺るがす起爆剤となったのだから、

つんく♂のプロデューサーとしての感覚には、脱帽するしかない。

 

そしてもう一人、やはりこの曲はダンス☆マンの才能なしには語れないだろう。
ギター一本のデモからカオス感を保ちながらもセンス抜群のアレンジに仕立てる離れ業。

 

デモを聞いてから
わずか1日2日でアレンジを加え
つんく♂と一週間の猶予で作り上げたというのだから、
言うまでもなく、必死だったのだろう。
ダンス☆マンの制作秘話を読むと、その片鱗が見て取れる。*1

  

 *************************************************

 <アイドルと日本経済>

歌詞を見ていこう。

 

語尾のリフレインや
Wow Wow Yeah Yeahなどの投げ込みの印象が強いが、
この曲のリズムを根底で作っているのはやはり日本語部分だ。

 

続きを読む

ディーヴァに見るJPOPの分岐点

【#014 情熱/ UA (96年)】 の考察 /2019.01.10_wrote

UAの4枚目のシングルであり、UAという名前を一躍有名にした出世作。
じわじわとロングヒットを続け、UA作品の中でチャートイン最多を数える。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

 *************************************************

<安室奈美恵が歌ったUA

 

この曲をヒットさせたのは安室奈美恵だと思っている。

 

かつて、
三宅裕司、中山秀征や赤坂泰彦の進行のもと、
ある種スナックのような状態で
様々な人たちがその時々のヒット曲を歌うゆるめの音楽番組があった。
その名も、『THE夜もヒッパレ』。

 f:id:takuyasasaya:20190107172012j:plain

 

そこに
安室奈美恵with SUPER MONKEY’SやSPEEDなど、
これから売り出したいであろう若手アーティストがサブキャストとして配され、
テレビ出演経験とヒット曲を歌う機会を与えられていた。

 

96年といえば、
前年から小室哲哉プロデュースにより完全ソロになった安室奈美恵が

トップアーティストとなり、アムラーが流行語大賞を取った年。

「安室奈美恵」という存在は売り出したい若手アーティストという域をとうに越えていた。

 

さらにはその音楽性においてもちょうどDon’t wanna cryをリリースし
ユーロビートからR&Bへと方向転換が見え始めたタイミングである。

 

そこで、チャート圏外ながら注目曲として歌われたのが、
まさにこの曲、「情熱」だったのだ。
(いやぁ、youtube無いですねぇ。誰か上げて欲しいものです)

 

イントロと呼ぶにはあまりに短いドラムを抜けて、歌が始まる。

きっと涙は 音もなく 流れるけれど
赤裸々に 頬濡らし 心まで溶かし始める

 

スナックのカラオケ的なTV画面の中で
その時間だけが異次元空間のように見えた。

 

誤解を恐れず言うと、
彼女が自身の歌を歌うよりも、全力に見えたし、カッコよく見えたのだ。
それはR&B色を打ち出したトップアーティストとしての、
本気でいいと思う楽曲に対するリスペクトに思えた。

 

そんな楽曲が、注目を集めないわけがない。

ネットを探しても見つからので筆者の記憶だけが頼りだが、
この日のTHE夜もヒッパレ放送の翌週、
情熱が一気にチャートを駆け上ることになった(と記憶している)。

 

夜もヒッパレで楽曲を知った人が原曲に触れることで、今度は

ヴォーカリストとしてのUAの才能に驚かされることになるのだ。

  

 *************************************************

 <ディーヴァという言葉の浸透>

 

www.youtube.com

朝本浩文という才能が織りなす
クラブミュージックやR&Bという言葉だけでは片付けられない、

 

続きを読む