90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

「才能」と「自然体」のバランス

【#019 Heaven’s Kitchen / Bonnie Pink (97年)】 の考察 /2019.02.1_wrote

Bonnie Pink(現在は大文字表記)の4枚目のシングルであり、トーレ・ヨハンソンのプロデュースでの2枚目のシングル。
自身初のオリコンチャート入りを遂げることになるこの曲、実は本人が生まれて初めてつくった曲と言われている。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<椎名林檎も嫉妬する才能

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名前があって

そこに愛があって

たとえ一人になっても

花は咲いている

 

 

97年。
ラジオのパワープレイ。
一撃でノックアウトされた。

 

時折気だるく吐き捨てるような台詞調の英詞。
不安定に上下し歌い終わりに下がる音階。

同じ国の文化に触れて育ったとは思えないほど、
自由で異質なその音楽に戸惑いすら覚えた。

 

それがBonnie PinkのHeaven’s Kitchenである。

 

真っ赤な髪色のショートヘア。
誰にも媚びない強烈な個性。

 

「自分のやりたいことを先にやられてしまった」
と椎名林檎がデビュー前に語ったとされるその才能は、
邦楽の域を軽々と越えているように思えた。

 

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Heaven’s Kitchenは
危険地帯Hell’s Kitchen(そこに迷い込むと身ぐるみはがされ
何もかも食べ尽くされてしまう)の対義語としてつくられたらしいが、
そんなことは当時ティーンの筆者としては知るはずもなく。

 

「最初は何を歌っているかすらわからない歌」なのに、
耳が放っておくことができない。そんな強い引力があった。

 

しかし、20歳ちょっとで人生初めてつくった曲がこれってどんな才能だ…

 

 

    

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 <天才と繊細と>

 

経歴を調べると面白い。

 

学園祭で、部活の活動実態が必要だからという理由でバンドを組み、
そこから人づてに噂が広まりデビューし、
他人の書いた曲の中に自分に合う曲がないという理由で作詞作曲を始めた*1

というのだから、
これを才能と言わずに何と言おう?

 

   

しかし、
そんな彼女が初めてつくったというこの曲の歌詞は、
そんな「才能」に対する話を真っ向から否定する。

 

Sometimes I get sick of words like genious , real power man of great talent
時々”天才”や”偉大な才能の力”みたいな言葉にうんざりする。


I don't wanna hear that We don't wanna hear that
そんなの聞きたくないし みんなも聞きたくないでしょ。


I just want expressing myself
私はただ思った通りに生きたいだけ。


I need somebody to love me , hug me all my life
そんな私を一生愛して、抱きしめてくれる人が必要なの


That's why I came here , Heaven's Kitchen
それが私がここ、”ヘブンズキッチン”に来た理由

 

尖った個性の裏にある繊細さ。

 

翌年、アルバム「evil and flowers」をリリースののち、
本来の自分との間にギャップを感じ、渡米。活動休止に入り、
3ヶ月の予定のところを2年過ごすことになる。(この間にBonnie Pink→BONNIE PINKに)

 

こうして見ると、
Bonnie Pinkという名の歌手として

強烈な個性や自由を主張する歌に聞こえていた
「Heaven’s Kitchen(自由に生きられる安息の場所)」は、


むしろ、
本来の自分として

Bonnie Pinkという名の個性を捨て力を抜いて生きるための
「Heaven’s Kitchen(自由に生きられる安息の場所)」に聞こえてくるから面白い。

 

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 <赤い髪を辞めて

 

真っ赤な髪を辞め、より自然体で音楽と向き合うことになったBONNIE PINK。

 

ブランクの後、静かに活動を再開。
強烈な個性を押し出さなくても、
その高い音楽センスは、確実にファンを広げていく。

 

Take Me In、Tonight, the Nightとヒットを重ね、
LOVE IS BUBBLEでは映画、嫌われ松子の一生に出演し女優デビュー。
資生堂アネッサのCMに使用されたA Perfect Skyでオリコントップ10に返り咲く。

 

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NYでの体験を彼女はこう語っている。

今まで閉じていた扉が、一気にバーンと開いた、というか、こじ開けられた、のかな。*2


Hell’s KitchenのあるNYだが、
その街での体験は、まさに彼女にとってのHeaven’s Kitchenだったのかもしれない。