90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

ユルさへの全力疾走。

【#022 アジアの純真 / PUFFY (96年)】 の考察 /2019.03.14_wrote

奥田民生プロデュースのユニット、Puffyの鮮烈なデビューをミリオンヒットで飾った曲。
いきなり出演を果たしたCM「天然育ち」の曲でもあり、この年、PUFFYはレコード大賞・最優秀新人賞を獲得した。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<ユルさに、全力

 

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96年。
小室サウンドによる高音を駆け上がる旋律や、
沖縄アクターズスクール出身アーティストなどによる
キレのいいダンスなどがJ-POP界を席巻していた頃。

 

坂道を全力で駆け上がる全力坂のごとく

各アーティストが全身全霊で想いを込めたパフォーマンスを繰り広げる中、

同じ坂をゆったりたららんと歩いて登るかのごとく

拍子抜けするほどに気取らないアーティストが誕生した。
それがPUFFYである。

 

折しも音楽番組としてHEY!HEY!HEY!の絶頂期。
ジーンズにTシャツ、双子のようなルックスに加え、
周囲のアーティストたちの対極とも言えるその力みのない振る舞いや、
ゆるやかで気さくでユーモアに富んだトークは
「自然体」「脱力系」と評され、幅広い支持を獲得していった。

 

パワー勝負一辺倒の試合の中で、
サッカーで相手を交してさっとループシュートを放つような力の抜け方。
この「自然」「脱力」というのはそう簡単にできるものではない。

 

 

デビューと同時のCMリリースや、メディア露出等々…
デビューしたばかりの21歳と22歳には、むしろ肩の力を抜く方が難しいだろう。
実際、20周年のインタビューを読むと、脱力したことなど一度もなかったという*1

 

そこにはオトナの緻密な計算と存分な遊びが入り込んでいる。

 

仕掛け人はご存知の通り、
プロデューサーを務める、奥田民生。
イージュー★を走り始めた男の、おっさん的ユルさと遊び心。
それをチャーミングな女性2人が全力で演じるキャッチーさ。

 

つまり、
「ユルさに、全力」

それがPUFFYなのだ。

 

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(最初の二本、「天然育ち」という商品ネーミングと
デビューシングルの奥田民生のナレーションに、
徹底した「自然体」「脱力」推しな狙いが見えますね)

 

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 <オトナのユルさと遊び心>

宇宙船が飛来するようなきらめく曲調にのせた
不思議な言葉の羅列。
井上陽水が鼻歌のデモを空耳的に起こしたとされる歌詞には、
まさに大人の遊び心がふんだんに盛り込まれている。

 

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 北京 ベルリン ダブリン リベリア

束になって 輪になって

 


ベルリンの時点でもうアジア関係ないじゃん!
などと突っ込むなかれ。
ナンセンスな歌詞にそんな突っ込みを入れるほどのナンセンスはない。

 

意味など無視して、
パフィー声と言われるユニゾン唱法から放たれる
言葉の羅列の気持ち良さに身を委ねればいい。
そうすると、点と点から線を越えていきなり面が立ち上がるように、
それぞれに羅列された単語の中からぼんやりと全体世界が滲み出てくる。

 

世界を飾り付けそうに輝いている

愛する限り 瞬いている

今 アクセスラブ

 

筆者はそこに
谷川俊太郎の「ことばあそびうた」に近い印象すら覚える。

 

それはもはや、
音楽が持つ言葉であり、
言葉が持つ音楽なのだ。

 

 

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 <世界へ羽ばたくキャラクター

 

当初1曲限りの限定ユニットの予定だったPUFFYだが、
その勢いは止まるどころかむしろ加速していく。

 

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続くシングル、「これが私の生きる道」で2作連続のミリオンヒット。
資生堂「ティセラ」のCM曲として「私・生・道」の言葉遊びをタイトルに仕込む奥田民生のユーモアが光る。

 

アイドルともアーティストとも形容しがたい
アイコニックな二人の存在は、
アジアへ、世界へと飛び火していく。

 

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デビュー翌年の97年からアジアキャンペーンを開始し、
2000年にはSXSWへ出演。
その後、全米ツアーとアーティストの道を深化させる一方で、
2004年には二人を主役にしたアニメ、
「Hi Hi Puffy AmiYumi」が全米放送されるなど、
キャラクターとしての魅力も世界的注目を集めることとなる。

 

デビューから20年強。
すでにアラフィフに足を突っ込みはじめた二人だが、
そのキャラクターは色褪せることはない。

 

キャラクター=個性。

 

二人が揃うことで生まれる唯一無二の個性。

もしかしたら、亜美が由美にデュオを提案したその瞬間から、
「彼女たちの生きる道」は決まっていたのかも知れない。