90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

「好き」と「売れる」の狭間に

【#021 ガッツだぜ!! / ウルフルズ (95年)】 の考察 /2019.03.7_wrote

ウルフルズが国民的人気アーティストになるきっかけとなった9枚目のシングル。
KC&the Sunshine Bandの「That’s the way」をベースにした
キャッチーな楽曲とプロモーションビデオで、大ヒットを記録した。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<ちょんまげ姿とダンスビート

 

ガッツだぜ パワフル魂
ガッツだぜ すいもあまいも
ガッツだぜ Do the ど根性
男は汗かいて ベソかいて GO!

 

 

ちょっとふざけたダジャレのような歌詞。
あくまで日本語読みのカタカナ英語。

 

デビューから低迷していたウルフルズの勝負の1曲は、
起死回生の大ヒットを記録し、
その存在は国民的に知られることになった。

 

そして、
多くの国民に記憶されるきっかけとなったのが
ちょんまげ姿のトータス松本の姿だろう。

 

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画期的MVだった。


ちょんまげ姿とダンスビートのミスマッチ。
吹き矢で倒れたトータス扮する殿様が、
「ガッツだぜ」の連呼で起き上がるくだらなさ抜群のコメディっぷり。

 

突拍子もない世界観でありながら
なんともウルフルズらしさを存分に感じるから不思議だ。


クールにカッコつけることへの照れを
ユーモアやおふざけでごまかしながらも、
その芯にある熱い思いをパワフルに歌い上げるウルフルズの楽曲。

 

関西人気質の人間味と音楽への情熱。


竹内鉄郎演出によるこの一見悪ふざけにも見えるこのMVは、
そんな言葉に置き換えづらいウルフルズの魅力を、
見事に体現しているように思える。

 

 

 

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 <ウルフル大作戦 〜「好き」と「売れる」の狭間に>

「ガッツだぜ」の大ヒットで国民的バンドになったウルフルズだが、
この9作目のシングルに至るまで、
デビューからの道のりは決して順風満帆ではなかった。

 

1stシングル『やぶれかぶれ』はチャート圏外、
1stアルバム『爆発オンパレード』は、発売から数ヶ月で廃盤。
クビ寸前のウルフルズを支えたい事務所のタイアップ要請とバンドの思惑との乖離など、事態は困窮していたようだ。

 

   

それでも地道にライブ活動を続けていたウルフルズを救ったのが
大瀧詠一をプロデュースしたり、山下達郎の楽曲も手がけた敏腕プロデューサー、伊藤銀次である。

 

ディレクターがウルフルズを売るために提案した
「ウルフル大作戦」のひとつだったという伊藤銀次との出会いにより、
ウルフルズはプライドと葛藤しながらも、
「好きなこと」と「売れること」の狭間の中に答えを作り出していく。

 

徐々にFMを中心に認知度も上がりはじめ、
8thシングル「SUN SUN SUN’95」ではじめてのオリコンチャートイン。(96位)

満を持して、勝負のシングルとして出されたのがこの、「ガッツだぜ」である。

 

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曲作りに悩んでいたトータス松本に
小室哲哉が番組収録の合間に勧めたというディスコサウンド。
曲作りの時にたまたまかかっていたというKC&the Sunshine Bandの「That’s The Way」
それまでのキャリアや葛藤、あらゆる要素が運命的に符号し、
デモ音源として、シングル候補曲6曲の最後に「おまけ」という仮タイトルで収録された7曲目。
*1

 

会議参加者たちが勝負のシングルに太鼓判を押す中
それでもトータス松本だけは、
「もっと他にも自分の好きな曲があるのに…。」
「こんなもん売れるわけないし、売れたら困るかもしれへん。」
と思っていたという。
 

 

実際、後のインタビューでも複雑な気持ちを吐露している。*2

 

音楽性を追求し悩んで生み出した好きな曲がヒットせず、
ひょっとしたところからヒットが生まれる。


皮肉にも見えるが、
数多くのアイデアと同じように
頭で考えぬいた苦しみの先に、ふと現れるむき出しの本質がそこにはあるのかも知れない。

 

そこに現れる自分らしさ。


それは本人が自覚しなくても、世間が気づかせてくれるものだ。
なぜなら、ガッツだぜ!はウルフルズの代名詞としてしっかり認識されているのだから。

 

 

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 <僕の人生の今は何章目くらいだろう

 

「ガッツだぜ」のヒットを皮切りに、
ウルフルズは不動の地位を確立していく。

10thシングル、「バンザイ」がアルバムからのシングルカットにも関わらず50万枚を超えるヒット。

CMタイアップなどの書き下ろし、さらには出演まで果たしたり、

 

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さらには当時人気絶頂のセレクトショップ、トランスコンチネンツの広告に起用されるなど、
飾り気のない人間味と熱い思いを持ち合わせた魅力は、音楽業界以外でも注目を浴びることになる。
(もともと服飾の専門学校卒ではあるが)

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そこから早、20数年。
ジョン・B・チョッパーの脱退や復活。
トータスのソロ活動、
ウルフルケイスケの活動休止など、
こんな3行でまとめてはいけない歴史が過ぎ去っていくわけなのだが、

 

あらゆる環境が変化しても、
「その時代をその歳として生きる人間」を全開に出している
ウルフルズの魅力は変わることはない。

 

吉田拓郎もカバーした
「僕の人生の今は何章目くらいだろう」という曲がある。
トータス松本が歌う人生と
吉田拓郎が歌う人生がまた違った深みを出していてそれぞれに素晴らしい。

 

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いつの日か、おじいちゃんになったトータス松本が歌うこの曲を聞いてみたいと思う。

として、これからも、大人の魅力を存分に発揮してもらえたら幸いである。

 

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