90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

3人の掛け算によるタイムレスな音楽

【#016 Swallowtail Butterfly~あいのうた~ / YEN TOWN BAND (96年)】 の考察 /2019.01.24_wrote

96年公開の岩井俊二監督映画、「スワロウテイル」に登場する無国籍バンドの曲。
映画の登場人物名義による発売ながらシングル、アルバム共に週間チャート1位を記録するなどの現象を起こした曲。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<10代だけに刺さる特殊な言語

飛び交う中国語。英語。カタコトの日本語。
目を背けたくなるような暴力。痛み。貧困。
エキゾチックでありながらも郷愁感漂うディストピア。

 

R-15指定をギリギリクリアして見た世代としては、
映画「スワロウテイル」の衝撃は凄まじかった。

 

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邦画とは思えぬ大きな世界観。
全体に浮遊するどこか懐かしい匂いのする気怠さ。
時々、目を背けたくなる重々しさを持ちながらも、
それでいて、10代に刺さる、圧倒的なカッコよさ。

 

おそらく、映画を観た年齢によって受け取り方は大きく異なるだろう。


映像のトーン・キャスト・美術・ストーリー。
すべての要素が若者だけに伝わる言語で、迫ってくる。
逆説的だが、若者以外はわからなくていいと突き放した表現ともとれるこのカルチャー感が、
10代に圧倒的密度を持ったものとして押し寄せるのだ。

 

その中でも、
この映画における音楽の存在はあまりにも大きい。
世界観を決定づけるSunday Parkのギターに始まり、
そしてエンディングのSwallowtail Butterfly~あいのうた~ まで。
この映画はある種ミュージックビデオとストーリーが合体したような形で進行していく。

 

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そういう意味では
岩井俊二&小林武史の二人の世界観による映画と言ってもいいだろう。

 

Love Letter、打ち上げ花火とヒットを重ね、
気鋭の監督として注目を集め始めた当時33歳の岩井俊二。
破竹の勢いでヒットを飛ばすMr.Childrenのプロデューサーとして注目を浴び、
前年にMY LITTLE LOVERを立ち上げ自らも表舞台に参加した36歳の小林武史。

 

岩井俊二の作るファンタジーの中にあるリアリティ。
小林武史の作るキャッチーさと哀愁。
まさに若者文化を代表する二人の感性が混ざり合い、
YEN TOWN BANDは、
映画の枠を超えて羽ばたいていったのだ。

  

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 <Charaという楽器>

 

映画の中のグリコが、現実世界ではCHARAという歌手であったり、
映画内で他にかかる音源がMY LITTLE LOVERの音源だったり、
劇中のCMがクリスペプラーの声によるそれっぽさだったり。

 

  

映画「スワロウテイル」は

映画世界が現実のような錯覚を抱く感覚を抱かせる。

虚の中に実を入れ込むことで、

架空の世界と現実世界が交錯し、その境界線を溶かしていくのだ。

 

逆に現実世界に入り込んだ架空こそが、YEN TOWN BANDだ。

YEN TOWN BANDの音楽は、現実世界から「スワロウテイル」の世界に一瞬で誘う。

その鍵となるのが、グリコ(=Chara)のボーカルだ。

 

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なんとも形容しがたいウィスパリングボイスと独特の節回し。


もちろん声の特徴は
その後のCharaの歌にも言えることかも知れないが、

グリコという人生を経験したことからくる、
(あるいはグリコそのものとして生まれる、)
痛々しくもありながら不思議な温かみを持つ愛情。

 

それが唯一無二のCharaという楽器を通すことで 

 

躊躇/空の青の青さに心細くなる

という岩井俊二の歌詞に切なさを、

心に心に傷みがあるの/ママのくつで

というCharaの歌詞に少女性と儚さを、

信じるものすべて/夏草揺れる線路を

という小林武史の歌詞にノスタルジーと優しさを与え、*1

 

どれだけ時代が経っても、
グリコのいる、YENTOWNに我々を連れて行ってくれるのだ。

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 <タイムレスな音楽

 

 

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2016年に、復活を遂げたYEN TOWN BAND.
20年前の記憶を一瞬で呼び覚ます音楽の力に驚いた。

 

そこで歌っていたのはやはりCharaではなく、グリコだった。

 

もちろん、音楽性を紐解けば、
アナログ感、ヴィンテージ性等々、
「YEN TOWN BANDらしさ」の謎を紐解く要素はあるのかも知れない。

 

しかし、
この音楽は、そのままYEN TOWNという世界なのだ。

 

同じ世代で言うと、
漫画スラムダンク(96年終了)のページを広げれば
そこに登場人物が動き出すように、
YEN TOWN BANDの音楽はいつだって
人々をあの街へ連れて行く。


映画こそ「once upon a time…」と始まるが、
それは時代や場所に支配されるものではなく、
映画を観た誰もが心の内に描き続けるパラレルワールドだ。


それは20年前から、

昔でもあり、未来でもあり、日本でもあり、どこかでもある。

タイムレスな音楽であるがゆえ、色褪せることもないのだ。

 

 

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(69年にシナトラが歌ったmy wayを取り上げること自体時代を超越してますね)