90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

アイドルとビジネスの距離

【#015 LOVEマシーン / モーニング娘。 (99年)】 の考察 /2019.01.17_wrote

ASAYANの企画の派生からデビューしたモーニング娘。7枚目のシングルであり、
後藤真希が第3期で加入した直後のシングル。グループ初のミリオンヒットを記録した。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<アイドルと楽曲の距離感

ASAYAN、中期。
番組自体もオーディション企画が続くことで
人気はあったがややマンネリの兆しが見え隠れし、
デビューこそ大成功だったモーニング娘。(以下モー娘。)も、
リリース曲ごとに次第に順位を下げていた頃。

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テコ入れが必要だったのは確かだろう。
それが、新メンバー後藤真希の加入及びセンター抜擢であり、
この楽曲、「LOVEマシーン」である。

 

にゃお〜~~~~ぉおん!

 

なんという出だしだろうか。
正統派アイドルとしてデビューした「モーニングコーヒー」のイメージからは
到底想像できない悪ノリっぷりである。

www.youtube.com


ダンスというにはあまりに滑稽なポージングに近い「踊り」。
歌詞というには経済用語と恋愛を無作為に乱立させただけのように読める「言葉」。
そして、ひと世代前を彷彿とさせる「ディスコミュージック」。

 

正統派アイドルから突如ブチ放たれる、勢い任せのカオス。

 


MVがテレビから流れたのを見て、
最初は「ぽかーん」となった人がほとんどだったようであろう。
情報量の込み入り具合が、脳の処理速度を超えているのだ。

 

しかし、まさにそこがつんく♂の狙いだ。
よくわかる直球な王道ソングは、勢いに乗っている時こそヒットしやすいが、
停滞している流れの中でノイズを高め注目度をあげるためには、「魔球」しかない。

 

魔球に必要なのは、アイドルと楽曲の距離感である。

到底アイドルソングとは思えない、
アイドルイメージから数万光年離れた距離にある楽曲を作り上げることこそが、至上命題だったに違いない。

結果、

モー娘。の起死回生の起爆剤として
世に放たれたこの奇妙奇天烈摩訶不思議な組合せの楽曲は
世紀末、低迷する日本すら揺るがす起爆剤となったのだから、

つんく♂のプロデューサーとしての感覚には、脱帽するしかない。

 

そしてもう一人、やはりこの曲はダンス☆マンの才能なしには語れないだろう。
ギター一本のデモからカオス感を保ちながらもセンス抜群のアレンジに仕立てる離れ業。

 

デモを聞いてから
わずか1日2日でアレンジを加え
つんく♂と一週間の猶予で作り上げたというのだから、
言うまでもなく、必死だったのだろう。
ダンス☆マンの制作秘話を読むと、その片鱗が見て取れる。*1

  

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 <アイドルと日本経済>

歌詞を見ていこう。

 

語尾のリフレインや
Wow Wow Yeah Yeahなどの投げ込みの印象が強いが、
この曲のリズムを根底で作っているのはやはり日本語部分だ。

 

  

大きく分解すると、
・(アイドルソングとして恋愛を歌う)Aメロ
・(経済と恋愛を絡める)Bメロ
・(経済と恋愛の発展を願う)サビ
という流れなのだが、随所に作詞家としてのつんく♂の格闘の痕跡が見えてくる。

 

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まず、冒頭。

あんたにゃ 

 

これには参りましたという他ない。
サッカーで言うなら試合開始1分で試合を決定づける2得点をあげる1行。
「あなた」→「あんた」でアイドルとは対極の地平へ導きながら(1点目)
「にゃ」の語尾が強烈なダメ押しゴールでダンス☆マンサウンドにドライブをかける。(2点目)
(さらにその後の「熱けりゃ」「淋しけりゃ」と続く)

前述の通りアイドル文脈の作詞からは普通はたどり着かない見事な出だしである。

 

そして、Bメロ。

どんなに不景気だって恋はインフレーション
(中略)明るい未来に就職希望だわ

 

そんなの不自然だって恋のインサイダー
(中略)幸せ来る日もキャンセル待ちなの?

 

恋とインフレ/恋とインサイダー
恋愛の対極とも言える経済(ビジネス)用語の接着だ。
この違和感により、ある種「セーラー服と機関銃」のような言葉の強さが生まれる。
そこに「就職希望」や「キャンセル待ち」といったを重ねてサビへ繋ぐのだが、

秀逸なの中略で飛ばした真ん中の一節だ。

 

こんなに優しくされちゃ みだら
それでも上手にされちゃ あらわ

恋愛を描くパートにおいても、
徹底的にアイドルイメージから遠い言葉を選ぶことで、
さらりと流すことができず、耳が反応してしまう歌詞になっている。

 

そして、当時日本中のカラオケから聞こえたあのサビに突入する。

日本の未来はWow Wow Wow Wow
世界がうらやむYeah Yeah Yeah Yeah
恋をしようじゃないかWow Wow Wow Wow
Dance! Dancin’all of the night


アイドルも経済も恋愛もディスコサウンドも全要素を放り投げてごちゃ混ぜのサビ。

日本の未来は(主語)恋をしようじゃないか(述語)、、、はてなんのこっちゃい?

 

しかしこの流れにおいて文法なんてものは関係ないのだ。

カオスが生み出す根拠のない脳天気さ、明るさ、元気。
それこそがつんく♂が行き先の見えない日本に投げ込んだ魔球ではなかろうか。

 

「同じ阿呆なら、踊らにゃ、損、損」

筆者はそれに、阿波踊りと似た感覚すら覚える。

 

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 <モーニング娘。というビジネスモデル

 

アイドルの対極として挙げられたビジネスだが、

皮肉にも、
その後、両者は対極ではなくなっていく。

 

それまで「メンバー」こそがアイドルの定義だったアイドル界だが、

モーニング娘。は、
メンバーチェンジを繰り返し続けることで、
「グループ」をブランド化し、「容れ物」としてのビジネスシステムへと変貌を遂げたのだ。

ビジネスシステムとして見た場合,モーニング娘。の新奇性は,それまで基本的に不可分であっ たユニット(グループ)名とタレントを分離可能な存在としたことにある.これによりモーニング娘。 は,アイドルグループとしては異例の長寿を獲得した.
*2


もちろん、そのベースには、秋元康によるおニャン子クラブの存在があるのだが、
秋元康が生み出したベースを、
つんく♂がビジネスシステムにまで昇華させ、
それをさらに加速させた形でAKBや坂道系グループのアイドルの存在があることを考えると感慨深い。

 

どれだけ時代が変わっても、
時代を捕まえながらヒットを作り出す両者の才覚に、
ずっと踊ら(Dancin’ all the night.)されているのかもしれない。

あんたもあたしもみんなも社長さんも。