90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

大人の色気と普遍性

【#020 接吻 -kiss- / ORIGINAL LOVE (93年)】 の考察 /2019.02.21_wrote

渋谷系の代表格と謳われたORIGINAL LOVEの5枚目のシングル。
91年のメジャーデビュー前からその音楽性に対する評価は高く、
田島貴男は90年まで小西康陽の誘いでピチカートファイブの2代目ボーカリストも掛け持ちしていた。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<大人の世界の片鱗

中学生時代。
姉の部屋に一枚のCDがあった。
「SUNNY SIDE OF ORIGINAL LOVE」

 

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セピア色の写真の中で、
それまで筆者が知っているような、
テレビでワイワイと派手に騒ぐアーティストとは違う、
長身のシティーボーイがこちらをすっと見て立っている。

 

自分の部屋に移動し、CDを再生してみる。
あらゆるジャンルにルーツを持つ田島貴男のセンスが、
わかりやすいヒット曲ばかり聴いていた耳にガシガシ押し迫る。

 

渋谷系という言葉など露知らず、
オリコンチャートの上位に入るヒット曲しか知らない筆者にとって、
その出会いは大人の世界の片鱗を覗き見するような感覚だった。


そんな世界の入り口として、
ポップで耳馴染みのいい挨拶がわりの一曲がまさにこの曲、接吻だった。

 

www.youtube.com

 

長く甘い口づけを交わす

深く果てしなく あなたを知りたい

fall in love 熱く口づけるたびに

痩せた色の無い夢を見る

 

 

都会的で、知性的で、艶っぽい。

うまく咀嚼はできなかったが
それは初めて飲むエスプレッソのような味わいだったように思う。

    

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 <大人のキスとおしゃれな賢者タイム>

接吻・・・。
言葉の意味は誰しもがわかるのに、
この曲がなければなかなか聞くことのない言葉だ。
歌詞にも出てこないこの言葉こそが、
普通のキスとは違う、大人の世界に誘うのだ。

   

 

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接吻=大人のキス。

 

そう。
この曲はまさに柴田恭兵(当時41歳)主演の、
バツイチの恋愛模様を描いたドラマ「大人のキス」(筆者は未見)の
タイアップソングとして書き下ろされたという。

 

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(全く知らないドラマでした)

 

 

会いたい・付き合いたいというような純粋な恋愛とは対極に、
キスを交わしていてもどこか醒めた大人の恋愛。

熱く口づけるたびに 痩せた色の無い夢を見る

 

二人でいても、
それぞれがどこか別の世界のことを考えているような、
そしてその状況を悲観するでもなくあらかじめ理解しているような感覚。
そこに村上春樹の「やれやれ」に近い男のダンディズム。

子どものように無邪気に欲しくなる

あなたの素肌 冷たすぎて苛立つ

 

会っても無駄と知っているのに求めたり、
期待していないのに苛立ったり、
永遠に続く矛盾。
そしてその結果待っているのは、孤独さだったりする。

焼けるような戯れの後に
永遠に独りでいることを知る

 

ここで描かれるある種の賢者タイムも、
先ほどの「やれやれ」の感覚が相まってオシャレに見えるのだから、
大人って、怖い。

 

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 <普遍的なポップスと黄金世代

 

音楽活動30年を超えてもなお、精力的に活動を続けている田島貴男。

 

ニューウェイブ・パンク・ジャズ・ソウル・ファンク・ネオアコ・・・
あらゆる音楽を吸収しながらも、
それでいて、普遍的なポップスを目指してきたという*1

 

普遍的なポップスの定義に、「時代を超えて広く愛され続ける曲」という意味があるのだとしたら、
接吻 -kiss-はまさに普遍的なポップスになったと言えるだろう。

 

発売から25年以上が経ち、実に50組を超えるアーティストがカバーしている。

 

1993年 KIKI
1995年 五島良子
2003年 中島美嘉
2006年 中森明菜、SOTTE BOSSE、計4組
2007年 甲斐よしひろ、中西保志
2008年 HEY-Z他 計5組
2009年 中村あゆみ他 計5組
2010年 Sweet Jam Style
2011年 TOKYO No.1 SOUL SET他 計5組
2012年 大友康平、BENI他 計6組
2013年 ハナレグミ他 計4組
2014年 鈴木雅之他 計5組
2015年 さかいゆう他 計6組
2016年 青緯他 計4組
2017年 中川敬他 計2組
(最近じゃ、ほぼ毎年のペースですね。)

 

あの曲は今でも月に1回くらいカバーの申請がくるんです。発売当時はヒットしたとはいえ、チャートの10位にも入ってなくて。だからこんなに長く愛され続けているのは嬉しいですよね。*2

 

90年代J-POPを支えた
黄金世代(ROOTS66)の一人として、これからも、大人の魅力を存分に発揮してもらえたら幸いである。