90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

アルバムに見る世界観。私的名盤5選/PART01

【interlude #002】 /2019.02.28_wrote

このブログでは主としてシングル曲(1曲)ごとに記事を書いているが、
今日はアルバムについて書いてみたい。

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<アルバムに広がるアーティスト世界

 

飲みの席での話を現実にすべくブログを始めてみて、20件ほどの記事を書いてきた。

 

「90年代のJ-POPを1曲ごと記事にしてアーカイブ化する。」
そんな勝手な志を掲げてしまった手前、
感想を書くのにも事実のリサーチに追われたり、
不慣れな堅苦しい文章を使ってみたりと自分の首を締め、
一体何をやってるんだろうと思いながらも楽しくやっている。

 

さて、
このブログは主として90年代を彩ったシングル曲を取り上げているのだが、

90年代は、ミリオン、ダブルミリオンとシングル曲が派手にチャートを賑やかす一方で、
「アルバムこそが、アーティストの表現したい世界観を表すもの」という図式があったように思える。

 

目まぐるしく移り変るシングルはレンタルをして知り、
より深く知りたいアーティストのアルバムを買う。

 

シングル1枚=1000円。(2曲入り)
アルバム1枚=3000円。(10曲~)


という曲数的なお買い得感があることも否めないが、
同時にそれは「ハズレを引いたらシングル以外捨て曲ばかり」というハイリスクな買い物である。

かく言う筆者も中学生時代は、
どのアルバムを買えば失敗しないか?
そんな目線でアーティストの表現する世界観を嗅ぎ取ろうと努力していた気がする。

 

そんなわけで今日は
・アルバムで表現しているアーティストの目指す方向性
・アルバム全体を通した構成/世界観表現
・時代とのマッチング/ヒットしたかどうか
をベースに、
「筆者が勝手に選ぶ90年代を飾る私的名盤5選PART01」を紹介したい。
(ベストアルバムは除く)

 

 

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  <勝手に選ぶ90年代を飾る私的名盤5選PART01

 

01/「勝訴ストリップ」椎名林檎 00年

 


前作『無罪モラトリアム』が爆発的ヒットを続ける中、
罪と罰・ギブス・本能のシングル3枚を入れ込んだ意欲作。
無罪モラトリアムが「MM」であることに対する「SS」のアルバム名。
7曲目の罪と罰を中心に1曲目の虚言症から13曲目の依存症までシンメトリーな曲名の並び。
アルバム55分55秒というこだわりっぷりで、
アルバム全体を通じてひとつの世界を表現したいという椎名林檎の想いが伝わってくる。

 

 

02/「evergreen」MY LITTLE LOVER 95年

 

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MY LITTLE LOVERのファーストアルバムであり、
初動ミリオンを記録した大ヒットアルバム。
朝、静かな森の中を分け入るように始まる1曲目のMagic Timeから、
AKKOの清涼感を存分に活かした爽やかなポップス、
そして、大地すら感じさせるような壮大なラストへ繋がるタイトル曲、evergreenに向かって
まるで森の中を旅しているような一連の流れは圧巻。
その完成度の高さから、小林武史が「これで解散したほうがいいんじゃないか」と考えたほどだという。

 

  

03/「犬は吠えるがキャラバンは進む」小沢健二 93年

 

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フリッパーズギター解散後初の、オザケンこと小沢健二のファーストアルバム。
音楽性の話はたくさんの人が語っているのでここでは割愛するとして、
圧巻はやはり、全8曲という少ない収録曲の中の7曲目、「天使たちのシーン」だろう。
「どうか13分半だけ時間を作ってこの曲を歌詞カードを見ながら聞いてくれますように」
という旨を本人がライナーノーツで記しているように、この曲を書くためのアルバムという風にすら思える。
哲学めいた歌詞が散りばめられていて、小沢健二の今後の生き方が宣言されているような印象を受ける。
荒削りでありながら、発売から四半世紀を超えて、ウィスキーのように円熟味を増して聴こえるから不思議だ。

 

 

04/「深海」Mr.Children 95年

 

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時代の寵児としてのMr.Childrenが世に問いかけるような形でリリースした、5thアルバム。
収録曲の全てが社会風刺や内面を深く削るような暗く重いテーマで出来上がっていて、
それが一曲の組曲のようにシームレスにつながっている。
絶頂期の6thシングル~9thシングルの4曲を未収録とする暴挙に出てまで
(「Tomorrow never knows」「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」「【es】 ~Theme of es~」「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~」)
徹底的にテーマ性を重視して出来上がったアルバムは、傑作にして問題作の呼び声も高い。

 

 

05/「First Love」宇多田ヒカル 99年

 

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J-POP史上最大の事件といっても過言ではないだろう、宇多田ヒカルのデビューアルバム。
「Automatic」のデビュー時の話題性や765万枚という邦楽史上最高セールスやはもちろんだが、
このアルバムの恐ろしいまでの完成度は、そんな周囲の表面的盛り上がりを全て陳腐化する。
「all vocals by 宇多田ヒカル」という、のちにアレンジの才能も開花させることになる全体の音構成力。
歌詞を母音子音にまで分解し再構成する作詞能力。
メロディーメイカーとしての才能をいかんなく発揮しながらも
「Shape of My Heart」をサンプリングするなど積極的にHIPHOPやミクスチャーなど新しい音楽を取り入れる感受性。
すべてにおいてそれまでのJ-POPを置き去りにしたこの1枚は、年齢というフィルター抜きに日本の音楽史に燦然と輝く1枚であろう。