90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

企画モノを超える企画力とプロフェッショナルの力

【#038 冷たいキス / ICE BOX (94年)】 の考察 /2019.07.25_wrote

森永製菓「ICE BOX」のCMソングとして企画された音楽ユニット、ICE BOXのデビュー曲。
「企画モノ」ではありながら、吉岡忍、中西圭三、伊秩弘将、池田聡と言う顔ぶれでオリコン7位を獲得するなど話題になった。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。
 *************************************************

<企画モノを超える企画力と精度>

 

このCMをご存知だろうか。


森永「ICE BOX」 CM 「冷たいキス」

 

ICE BOX。
森永の商品名=ユニット名と言う形でデビューした
謎の覆面集団でありながら、
CMを通じて放たれる楽曲「冷たいキス」は
その伸びやかなボーカルとキャッチーな旋律で
オリコン最高7位。55万枚を記録し、商品とともに大ヒットを記録した。


タイアップ全盛期において、
CMや番組などを絡めた所謂、「企画モノ」の音楽リリースはそれなりにあったが、
商品CMでありながら、同時にユニットICEBOXのPVでもある構造は斬新だった。
商品名=アーティスト名とする振り切り具合と楽曲単体としても視聴に耐えるクオリティー。


仕掛け人はやはりと言おうか、秋元康である。
「いや、普通のタイアップじゃつまらないんじゃない?
 商品名をそのままアーティスト名にしちゃうくらいじゃないと。
 いや、音楽はオマケじゃダメだよ、ホンモノじゃないと。」
なんて声が聞こてきそうであり、
東奔西走する関係者の姿まで見えてきそうである。

 

よくよく考えてみると、
CMにおいても、アーティストにおいても、
「普通じゃダメ」というのは売れるための必須条件である。

 

普通の企画モノ以上の企画、
普通のコマソン以上の精度。
そんな、
「普通じゃダメ」という秋元康のハードルこそが、
普通の企画モノを超えるこのような楽曲を作り上げたのだろう。

 

f:id:takuyasasaya:20190724164035j:plain



 

 

 *************************************************

  <プロフェッショナルの力量>

 


ICE BOX ~冷たいキス~

   

キスが冷たいよ いつもと違うよ
何かあるのなら ねぇはっきり言いなよ
キスが冷たいよ いつもと違うよ
何を拗ねてるの 氷のままじゃ…

 

尺にはめてみると、前半2行で15秒。4行で30秒。
15秒CMを念頭においたであろう「冷たいイメージ」刷り込みと
30秒CMを念頭においたであろう「氷イメージ」の残し。
秋元康作詞によるこの曲の出だしのサビには、
CMで流された時に最大化されるべく緻密な設計がなされている。

 

ただ、それがゆえに
広告色を全面に押し出した印象が(特に今の時代でみるとことさら)強いのだが、
それをただのコマソン以上の精度に押し上げるのがICE BOXの面々だ。
何を隠そう、謎の覆面集団として集められた(=集まったではない)のは、

 

・COSA NOSTRAのボーカルであり
 後にレオパレス21のCM曲も歌っている吉岡忍。
・自身もアーティスト活動をしながら、
 久宝留理子の「男」をヒットさせ、後にSPEEDのプロデューサーとして知られる伊秩弘将。
・「Choo Choo TRAIN」の生みの親であり
 自身も「Woman」などヒットを記録していた中西圭三。
・「モノクローム・ヴィーナス」でデビューし、
 「ポケベルが鳴らなくて」では俳優デビューも果たした池田聡。

という一線級の実力者たちだ。

 

正直に言って、勝手に作られたグループ。実は僕たちメンバーの意思とは関係なく結成されたという裏話を持っている。そういう経緯に激怒したメンバー(誰でしょう?僕ではないよ!)も中にはいるが、契約が(知らないうちに・・・)済んでしまっているのだからやるしかない。*1

 

その裏側には、池田聡がそう語るように
広告宣伝という特性上、アーティストが望まない形でのリリースがあったかもしれない。
時代背景を踏まえると、多少強引なキャスティングがあったかもしれない。

 

やるならば最高のものを、掌の上に乗せられてしまったのならばそれを逆に「ありがたい」と思おうと、ポジティブに思考を変えて、勢いだけで突き進んだ結果生まれたのがこの傑作なのだ。

 

ただそれでも、緻密な精度で期待値を超えたサウンドをつくりあげる
プロフェッショナルの姿勢には、ただただ頭が下がるばかりである。

      

 *************************************************

 <ICE BOX、復活>

 

かくして、商品・音楽ともに相乗効果を生み出したICE BOX。
その翌年もICE BOX BABYというユニットを使ったCMを送り出しているが
筆者も記憶になく、ヒットをしたとは言い難い。
それは周辺にごまんと溢れる「企画モノ」の一つに成り下がってしまったように見える。

 

ICE BOXの成功に便乗しドライブさせようとする
森永製菓や広告会社の思惑は至極真っ当だとは思いながら、
誰も手がけなかった商品(名)=アーティストという地平を開拓したからすごいのであって、
手垢のついた場所で過去をトレースする二番煎じは彼の仕事ではないだろう。
当然、ICE BOX BABYの楽曲「冷たくしないで」の作詞の項目に秋元康の記載はない。

 

それでいても、
旬のアーティストを起用するCMが続き、
ICE BOXのCMと音楽(特にアーティスト)の親和性は時間をかけて着々と成熟してきている。
(中にはゴールデンボンバーの鬼龍院翔が勝手にICE BOXという曲を書き、5年越しでCMに起用されるなどの話題もあった)


商品登場から30周年。
ユニットデビューから25周年。

 

期間限定でICE BOX(←ユニットの方です)が再結成した。


ICE BOX 冷たいキス〜令和Ver.〜

 

 

 

 

それだけ生き延びている商品もすごいが、現役で活動している彼らもすごい。
音楽ファンとしては伝説のユニットの再結成は素直に嬉しいものだが、
同時に、
過去の財産だけではなく、ICE BOXにはまた、
「誰もみたことがない」企画で世の中を驚かせてほしい。

 

 

f:id:takuyasasaya:20190724164018j:plain