宇宙の風と世界を変える魔法
【#027 ロビンソン / スピッツ (95年)】 の考察 /2019.04.18_wrote
スピッツ11枚目のシングルで、自身初のオリコントップ10入りを記録した曲。
デビューから5年の歳月をかけて生まれたスピッツ最大の大ヒット曲は、
阪神淡路大震災が起きたその日に録音したであるという。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。
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<宇宙の風と普遍性>
恒星が放つ極めて高温で電離した粒子のことを太陽風と呼ぶらしい。
これが、宇宙に吹く風の正体である。
そんなことを教えてくれたのはスピッツである。
・・・ってなんのこっちゃい。
大きな力で 空に浮かべたら
ルララ 宇宙の風に乗る
誰もが知っているであろうロビンソンのサビ終わり。
これが筆者が初めて聞いたスピッツの曲である。
耳の早い音楽ファンたちの中では徐々にその存在を認識されてきていたとはいえ、
スピッツの歌うロビンソンなの?
ロビンソンの歌うスピッツなの?
そんなやりとりが話題になる程、
アーティスト名さえ知らない人たちの方が大半だった。
しかし、
初めて聞くアーティストの決して派手とは言い難い物静かな曲が
メディアタイアップ全盛期に、大々的プロモーション無しにもかかわらず
じわじわと人気を広げていき国民的バンドへと成長していくのだから、
やはりこの曲には誰もを虜にする不思議な魅力が潜んでいるのだろう。
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<平易な言葉で世界を変える魔法>
特筆すべきはやはり草野マサムネによる独特の歌詞だろう。
美大出身ならではの繊細な感性と文学性が
噛み締めるほどに深みを増して曲に奥行きを与える。
思い出のレコードと 大げさなエピソードを
疲れた肩にぶらさげて しかめつら まぶしそうに
待ちぶせた夢のほとり 驚いた君の瞳
難しい言葉など一つも使われていないのに、
平易な言葉の組み合わせで誰も見たことない世界に変える魔法。
前後の他のシングルをとってみても、
幼い微熱(空も飛べるはず)
の形容詞の感覚。
浴衣の袖のあたりから漂う夏の景色(涙がキラリ☆)
という着眼点。
少しだけ眠い 冷たい水でこじ開けて(チェリー)
という省略。
バスの揺れ方で人生の意味がわかった日曜日(運命の人)
という飛躍。
小さな幸せ(中略)浅いプールでじゃれるような(正夢)
という倒置と比喩。
難解とも評される文学的歌詞世界が
曲の雰囲気にマッチして、妙に「わかった」感覚になるから不思議になるのは
うまく言うことが目的になってしまっているレトリックや
意識的に配置された極端な対義語など、「左脳」の部分を感じさせないからであろう。
もはやセンスとしか言い表せない。
(以前、別の記事で筆者が思う逆立ちしても書けないと思うシンガーソングライターの作詞について書いたが、そのうちの一人が草野マサムネである)
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<普遍性とパンクの尾骶骨>
ロビンソンを口火にその後も数多くのヒットを生み出し
もはや誰もが知るバンドとなったスピッツだが、
意外にも、100万枚を超えるヒットを記録したシングルは3枚しかない。
(もちろんめっちゃすごいことなのですが、90年代のミリオンバブルを考えるとと言う意味で)
元々パンクバンド始まりで
メジャーへの憧れがなかった彼らにとって、
スピッツらしい音楽を作り続けること、バンド活動を続けるための「売れる」であって
ただ「売れる」ことが第一義ではないのだろう。
そんなパンクの尾骶骨のような毒味(アルバムで発揮されがちな世界)と
メジャーに対するの頓着のなさがオリジナリティを作り出している。
スピッツの毒味も存分に味わえるアルバム「ハチミツ」
他の何ものとも似ていないスピッツ特有の世界観は、
その後30年近く経った現在においても全く変わることがない。
どこか憂いを帯びた優しいメロディーと、
ハイトーンで透明感のある歌声。
その柔らかなバンドの雰囲気の中で一際異彩を放つギター。
そして草野マサムネのあの髪型。
これからも、いい意味で「変わらない」バンドであり続けて欲しい。
*1:CMだけでこれだけタイアップついてますからね。