90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

存在のPOPさと音楽への真摯さ

【#029 ナンダカンダ / 藤井隆 (00年)】 の考察 /2019.05.9_wrote

それまで芸人として人気が出ていた藤井隆のデビューシングル。プロデュースは浅倉大介。
オリコン9位を記録し、その年の紅白歌合戦出場を果たした。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<オカマキャラ芸人のCDデビュー

 

役者・歌手・芸人・タレント。
全ての活動を高い次元で実現するエンターテイナーの藤井隆。
今でこそそのマルチな才能を認められているが、

その登場は、どちらかというと、
「騒がしいふざけたオカマキャラ芸人」という立ち位置だった。

 

ごっつええ感じで見せる強烈なキャラクター。
スキあらばHOT!HOT!と叫び踊る。

一歩間違えれば嫌われかねないスレスレの芸が
下品にならないのは、藤井隆という人間が持つ「ポップさ」によるものだろう。


吉本新喜劇でそのキャリアをスタートさせた藤井隆は、
瞬く間に全国のお茶の間での人気を得ることになった。

 

芸人としてのブレイクを果たした藤井隆は
ちょうどアーティストからプロデューサーへと活動の幅を広げ、
T.M.Revolutionの大ヒットを記録していた浅倉大介のプロデュースのもと、
歌手としてデビューすることになる。

 

それがこの曲、「ナンダカンダ」である。

 

ナンダカンダ - Single

ナンダカンダ - Single

  • 藤井 隆
  • J-Pop
  • ¥500

 

GAKU-MCによる耳馴染みのいい歌詞と
浅倉大介によるダンサブルなサウンドが
不思議な中毒性を生むこの曲は、
オリコン9位を記録し紅白出場を遂げるほどのヒットとなる。

  

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  <存在のPOPさと音楽への真摯さ>

 

一躍人気の出た役者や芸人・タレントが歌手デビューする。
というのは今も昔も変わらずある。

中には歌の上手いタレントもいたりして、
いい楽曲がハマるとそれなりのヒットを記録したりもしていたのだが、
継続的に歌手活動を続けるとなると、話は変わってくる。
(個人的にそれが成功していると思えるのは、とんねるずと松たか子くらいのものだろう)

ふらっと観光でやってくるには魅力的でいい街に見えても、
その街の住人になる、というのは、また別の話なのだ。

 

 

「企画モノ」という名の観光旅行。
藤井隆のデビューも、
その手の一つだろう。と思っていた。

しかし、
人柄あふれる素直なボーカルに加え、
元々の彼が持つ欧米のエンターテイメント感というか
カラッとした湿度低めのミュージカルのようなPOPさによって、
この曲は「芸人の企画モノ」とは一線を画していた。

 

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エンターテイナーとしての資質と言えばいいのだろうか。
感覚的に言えば、
他の企画モノが、「誰か(他の歌手)の歌に近づける上手さの意外性」なのに対し
藤井隆は、どこまでも藤井隆らしく、オリジナルなのだ。
そこには、ふざけたキャラクターを演じながらも、大好きな音楽への真摯さが詰まっている。

 

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(その後、デビューアルバム「ロミオ道行」においては、なんと松本隆に
作詞・プロデュースを依頼。作曲陣も筒美京平をはじめ錚々たるメンバーが楽曲を手がけている)

 

 

なんだかんだ叫んだって やりたいことやるべきです
あんたなんだ次の番は やりがいあふれるレースです

 

改めて歌詞を眺めると、
誰かの応援ソングであるこの歌詞も、
素直にやりたいことを実現している藤井隆の言葉に聞こえてくる。

 

さらに言えば、
それまでの「道を探せ」「目を覚ませ」「泣くな」「笑え」命令調と、
サビでのですます調が混ざる具合は、
その後知られるようになった藤井隆の真面目な人柄を考えると妙に納得が行くから不思議だ。

 

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 <歌手・藤井隆の再評価>

 

ナンダカンダから約20年。
藤井隆の音楽評価は最近また高まってきている。

一時は休止していたが、
その音楽センスを
RHYMESTER宇多丸やプロインタビュアーの吉田豪が絶賛。
再び活動を再開することになる。


その後もレーベルを立ち上げるなどその活動は本格化。

 

アルバム曲を90年代の空気感を存分に詰め込んだCM風にまとめたプロモーションや、

www.youtube.com

 

tofubeatとのコラボレーションなど、

www.youtube.com

 

着実に好きな音楽を形にしていっている。

 

なんだかんだ夢見たって 問題ない世の中です

 

多様性の叫ばれる今の時代らしい歌詞だが、
それを支えているのはそのポップな存在の裏にある生真面目さであることは忘れてはいけないだろう。