90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

オトナ化するターゲットとアニメ離れするアニソン

【#028 君が好きだと叫びたい / BAAD (93年)】 の考察 /2019.04.25_wrote

テレビアニメ『スラムダンク』のオープニングテーマとして起用されたBAAD3枚目のシングル。
93年から99年に至る活動の中で、最大のヒットを記録した曲。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<アニメソングのJ-POP化

 

ジャンプ黄金期。
ドラゴンボール、幽☆遊☆白書、ジョジョの奇妙な冒険、ろくでなしブルース等
稀代のヒット漫画がずらりと勢揃いしていた頃。


新たに台頭してきた看板連載、
「スラムダンク」のアニメ化は半ばヒットを約束されているような形でのスタートを切った。

そのオープニングを飾る曲が、
BAADの、君が好きだと叫びたい。である。
 

 

www.youtube.com

君が好きだと叫びたい 明日を変えてみよう
凍りついてく時間を ぶち壊したい
君が好きだと叫びたい 勇気で踏み出そう
この熱い想いを 受け止めてほしい

 

湘南の街並み。陽射し。
原作世界のサイドストーリーのようにも思える日常を切り取ったオープニング映像。
そこにかかるちょっと青臭い思いが溢れる前向きラブソング。
BAADと言うアーティストは知らなかったが、
中学生だった筆者にとって、
それまで知っているようなアニメの楽曲とは少し違って見えた。

 

エンディングでかかる大黒摩季の「あなただけ見つめてる」の効果もあっただろう。
アニソンという印象よりも、
どちらかというと「ドラマでかかるタイアップソング」のような、J-POPな印象を受けたのだ。。

 

 

 

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 <オトナ化するターゲットとアニメ離れするアニソン>

 

  

空を越えて ラララ 星のかなた 行くぞアトム

燃え上がれ燃え上がれ燃え上がれガンダム

パーマン パーマン パーマン

 

リアルタイムで見たかは別として、
子ども時代、アニメソングといえばタイトルやキャラクターの名前をどーんと押し出して歌うものが主であった。所謂、〇〇のテーマ的な曲。まさにアニメのために書かれたアニメのための歌。

 

アニメのヒットが増えてくるにつれ
ヒットソングを歌うアーティストが参入しはじめるのだが、

邪魔する奴は 指先ひとつでダウンさ

(愛をとりもどせ / クリスタルキング)

The Galaxy Express 999 will take you on a journey(銀河鉄道999 / ゴダイゴ)

という具合に、
アーティストなりの解釈や楽曲の洗練はあるものの
やはりアニメ世界を歌い上げるものがほとんどであったように思う。

 

それに対し、
この曲は「アニメに対する当て書き」の匂いが一切しない。
映像とのシンクロでスラムダンクイメージは強いが、
映像を無しで聴くとむしろ単体でリリースする音源にたまたまついたタイアップがアニメでしたと言ってもいいくらいの印象を受ける。

 

アニメソングのアニメ離れ。

 

アニメ世界を歌い上げるのではなく、
映像と歌の世界のミスマッチが感覚的に反応しあい、原作世界に程よい広がりをもたらす。

同じジャンプ漫画で言えば、
ドラゴンボールにおける「ロマンティックあげるよ(橋本潮)」がそれに当たるだろう。
(書きたいところだったが80年代なので断念)

 

いつから始まったのかは定かではないし、戦略的なことなのかは知る由もない。

だがそこにはアニメを子供じみたものに見せず、
ターゲットの年齢を大人まで拡大する効果があったように思う。

いずれにしてもスラムダンクはその後もアニメ世界に寄せることなく
OP「ぜったいに 誰も(ZYYG)」
ED「あなただけ見つめてる(大黒摩季)」「世界が終わるまでは(WANDS)」「煌めく瞬間に捕われて(MANISH)」「マイフレンド(ZARD)」

と、織田哲郎らが設立したビーイング関連のレーベルの楽曲で
その物語性の広がりと音楽のヒットを同時に獲得していったのだ。

   

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 <新しいフェーズへ突入するアニメタイアップ

 

子ども向けアニメをアニメ世界に寄せて(タイトルなどを混ぜながら)歌う
が一次フェーズなら、
アニメをタイアップ的に(切り離された楽曲で)歌う
のが二次フェーズであろう。

この二次フェーズは長く続いたように思う。

昨今、アニメは子ども向けというよりも大人に向けられた世界のものが多くなり
著名アーティストのタイアップはもはや当たり前のように定着した。

 

その上で現在は、

そばにいたいよ 君のために出来ることが 

僕にあるかな (ひまわりの約束 / 秦基博)

秦 基博 / ひまわりの約束(Short Ver.) - YouTube

というようにドラえもんとのび太の関係から友情や恋愛の普遍性を抽出したり、

 

 

北千住駅のプラットホーム (ハルノヒ / あいみょん )


あいみょん – ハルノヒ【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube

 

クレヨンしんちゃんの舞台(春日部)をタイトル(ハルノヒ)に絡めつつ
ひろしのプロポーズの話から家族=大切な人のいる日常の幸せを歌ったりと、

 

子ども向けアニメを
「アニメ世界に寄せながら/その普遍性を抽出し/曲単体でも成立する世界観で」歌う。
という高度なフェーズに突入しているような気がする。

 

アニメも音楽も成熟し飽和した中で、
名目だけのタイアップではなく
文字通り、どこまで深い結びつき(=tie up)が測れるかが問われている。

 

誰もが苦心するであろう中、
今の時代にてらいもなく堂々とど真ん中からキャラクターを歌い上げた
星野源のこの曲には脱帽するばかりだ。

 

何者でもなくても 世界を救おう
(中略) 君を作るよ 

どどどどどどどどど ドラえもん (ドラえもん / 星野源)

 

あれ?BAADの話どっか行っちゃった・・・

それにしても、スラムダンクを彩った楽曲たち。感慨深いなぁ。

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