90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

色物バンドの狂気と異質への寛容

【#025 さよなら人類/ たま (90年)】 の考察 /2019.04.4_wrote

若手バンドの登竜門「三宅裕司のいかすバンド天国」で、3代目グランドチャンピオンを獲得したたまのデビューシングル。
フォークを基調としながらも、奇妙な出で立ちと独特の世界観でオリコン初登場1位を獲得する。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<色物バンドの裏側に織り交ぜられた狂気

昭和の終わり、平成の始まり。
まだ近所に流れていたドブ川が蓋をされ綺麗にされたり、
エロ本が捨てられていた空き地が遊歩道になるなど
次第に世の中全体がスッキリと整理されてきた時代である。

当時小学生の筆者の目には
それはただ中途半端な郊外の進化として映っていたが、
平成が終わり令和の時代に突入しようというこの節目に
たまのこの曲を聴くと、
改めて進化について考えさせられてしまう。

 

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二酸化炭素をはきだして あの子が呼吸をしているよ 
どん天もようの空の下 つぼみのままでゆれながら 
野良犬は僕の骨くわえ 野性の力をためしてる 
路地裏に月がおっこちて 犬の目玉は四角だよ

 

 

 

 

進化の先にあるディストピア。


「ぼくらの体」が「くだけ散」ったり、
「あのこのかけら」だったり。

 

耳にこびりつくチャーミングな声や奇抜なルックス。
色物バンド的存在の裏側に織り交ぜられた狂気すら感じる歌詞。
そんなえも言われぬ不穏な感覚は
小学生だった私たちの世代にも、無意識下に刷り込まれることになる。

 

ネットを検索すると、さまざまな深読み解釈が溢れているが、
楽曲を手がけた柳原幼一郎は「本当に深い意味など全くない」と言っている。

 

おそらく、この言葉に嘘はないのだろう。
「深い意味など全くない」と言う意味は、
「深い意味など(を意識して書いているわけでは)全くない」と言うことなのだと思う。
そのひとつひとつが感覚的なものなのだろう。
受け手の解釈は自由だが、余計な解説や理解したフリは無粋なのだ。

 

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 <イカ天と異質への寛容>

筆者の勝手な解釈だが、
この曲の「わからなさ」の印象はジミー大西の絵画に近いものがあると思う。

 

笑われキャラの芸人が突如描きあげたエキセントリックな絵画。
絵画でしか表せない世界観であり、
当然、それを説明する言葉を本人は持ち合わせていない。

 

(好き嫌いはさておき)
この世の中には、自分と違う才能を持つ人がいて、
こちらの言語で都合よくそれを理解しようと言うこと自体に無理があるのだ。

 

「変でしたね。こういうの分かるって言っちゃいけない、分からないんだけどいい」
イカ天でたまの演奏を聴いた審査員のグーフィー森はこのように言っている。

 

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前衛的。エキセントリック。
「わからないもの」をそのまま「わからない」として評価する姿勢。

異質なものに蓋をせずに、
その存在をそのまま認める土壌がまだ当時の日本にはあったのだと思う。
少なくともイカ天にはあった。

 

そもそも三宅裕司の劇団だって、
スーパーエキセントリックシアターですからね。

 

芝居を始め、
アングラとメジャーカルチャーの行き来による異質への寛容。
たまがオリコン1位を獲得し小学生の耳まで到達する裏側には、
そんな時代背景があったように思う。

  

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 <多様性時代に再びのたま

 

たま現象と呼ばれるほど話題となったたまだったが、
その後はヒットに恵まれず2003年にたまは解散。

 

多様性が叫ばれる昨今。
(そもそも叫ばれている時点で怪しいのだが)
人との差異を際立たせながらも、
内実は理解できる距離感の中で差を認め合う「わかったふり」で埋められた音楽が増えたようにも思う。

 

その一方で、
ネオフォークの流行などもあり、
EGO-WRAPPIN’やハンバートハンバートなどがカバーするなど、
この異質な楽曲への注目度は再び高まっている機運も感じる。

 

さて、新時代。
久しぶりにたまを聴いて、
「まだわからない」これからの時代の進化について考えてみるのもいいかもしれない。

 

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