90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

ナンセンスと小宇宙

【#010 おどるポンポコリン/ B.B.クィーンズ (90年)】 の考察 /2018.11.29_wrote

アニメ「ちびまる子ちゃん」の初代エンディングテーマであり、90年唯一のミリオンヒットとなる曲。
ビーイング企画による覆面ユニットB.B.クィーンズのデビューシングルにして最大のヒット曲でもある。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<国民的アニメの開始とともに生まれた国民的ヒット曲

 

歴史的名曲は思わぬ角度からやってくる。

 

1990年。
光GENJI(88年)、PRINCESS PRINCESS(89年)と台頭するアーティストのヒットが続き、
カセットの売上とCDの売上がほぼ同格となった年。*1

米米CLUBやLINDBERG、たま、THE BLUE HEARTSと活性化していたJPOP界。

 

しかしそれらの面々を抑えて、その年の年間1位を圧倒的大差で勝ち取ったのが、
B.B.クィーンズのこの曲、「おどるポンポコリン」である。

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2位の浪漫飛行の61.9万枚に対し、倍以上の130.8万枚を売上をあげ、
その年の賞レースを独占したこの歌が、
当初、覆面ユニットであったことは驚きだ。*2

 

しかし。
それは音楽業界とCDの売上だけを俯瞰した時の話。
この曲は、もっと別の星から現れた異物だったのだ。
当時いかなるアーティストよりも、圧倒的な認知と波及力を持っていたもの。

 

それがこの年に誕生したアニメ、「ちびまる子ちゃん」である。

 

日曜の夕方に現れたこのアニメは、
アニメ開始からすぐさま国民的ポジションを勝ち取ったのである。
(同年最高視聴率39.9%、
 1月のオンエア開始時8社だったキャラクター商品化の権利が、
 5月には31社になったという過熱ぶりから見ても、
 いかにこのアニメの波及力がケタ違いだったかがわかるだろう)

 


音楽に話を戻そう。
当初、覆面ユニットであったB.B.クィーンズ。
これだけの国民的アニメのエンディングテーマとしては、
この匿名性こそが最大のヒット要因と思える。
*3


どんなにタイアップのためにアーティストが当て書きした曲でも、
アーティストはアーティストとして映像作品とは別の個性がある。

普通に音楽を聴いていると
ライブや番組出演での言動、はたまた単純にその顔がかっこいいかどうかなど、
タイアップとは別の世界観、別の情報が混ざりこんでしまうものだ。

 

アーティストイメージという不純物の混入をできる限り避け、
べに花油並みの混じりっけない世界観を確立すること。

 

それこそが、覆面ユニット、B.B.クィーンズの狙いだったのではないだろうか。

 

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 <ナンセンスと、固有名詞>

言わずもがなだが、
この曲の作詞は、ちびまる子ちゃんの著者、さくらももこである。

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冒頭から独特のナンセンスな世界観が広がる。

 

なんでもかんでもみんな おどりを踊っているよ
おなべの中からボワっと インチキおじさん登場

 

ちびまる子ちゃんの作品世界が散りばめられた小宇宙。
作品世界は多くのファンの分析があるし、
歌詞である以上そこに意味など問うのはもちろん野暮で無粋なことだが、
ただのナンセンスで片付けてしまうには、もったいない。

 

そこにはいつもアイロニカルな目線と、
なぜか物事の本質を歌っているかのような印象さえ感じられる。

 

その秘密を紐解くひとつのカギは
固有名詞にあるような気がする。


いつだって忘れない エジソンはえらい人 そんなの常識
いつだって忘れない キヨスクは駅の中 そんなの有名

 

Bメロにそれぞれ配された、固有名詞。
脳内に広がる小宇宙を全て一般化、抽象化して普遍的歌詞にしてしまうのではなく、

 

具体的固有名詞を出すことでもっと、
現実の何をどう捉えることに人間の可笑しみを見出しているか。
もっと言ってしまえば、
「人間のナンセンス」を浮き彫りにしているような気がするのだ。

 

*ネットの海を漁ったらサザエさんとちびまる子ちゃんの違いを、サブカルチャー的固有名詞の有無により論じる文章があった。
 これまた国民的アニメでありながら、普遍性/一般性を獲得したサザエさんとの対比が興味深い。

*4

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 <作詞家:さくらももこ

さくらももこはその後も、
走れ正直者(西城秀樹)/100万年の幸せ!!(桑田佳祐)/すすめナンセンス(PUFFY)など

ちびまる子ちゃんのテーマ曲を中心としながら、
それ以外の作詞も行なっている。

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おーい!(ウルフルズ)、すばらしき人よ (和田アキ子)、ボクら(ジャニーズWEST)、花はただ咲く(坂本冬美 with M2)などなど。

仕事としての作詞家の立場だろうか。
前述したようなアイロニカルな具体性は影を潜め、
どれも前向きでどこか不思議な世界観や、
人間に対する大きなやさしさや温もりを感じる詞が多いような印象を受ける。

 

もちろんそれはそれで魅力に溢れる歌詞なのだが、
本音を言えば、

彼女にはもっと脳内に広がるナンセンスな小宇宙を果てしなく広げた歌詞を書いて欲しい。
そう思っていた。

 

2017年。
おどるポンポコリンから27年。
おそらく闘病生活の中で彼女が最後に作詞した曲は、
彼女自身がそう望んだように*5
どこまでもナンセンスに溢れた曲であった。

 

急がば回れは のんき者だよ
インコがおしゃべり あら不思議
サンタのおじさん 夏は暇

ヒントは波乗り 不安定 近所のロコモコ もういっちょ
アンア〜 アアア~
ふざけたキミのくちびる青し

 

  

 

 

*1:https://gigazine.net/news/20110829_music_industry_change/

*2:年間チャート1位のミリオンヒットはその後2002年まで続くことになる

*3:B.B.クィーンズはその後TV番組出場などの事情もあって、
のちにビーイング企画によるものであると明らかになっているのだが、
当時の小学生はそんなことはつゆ知らずでした

*4:さくらももこの「ちびまる子ちゃん」の中にも陸奥(むつ)A子であるとか仮面ライダー2号一文字隼人といったサブカルチャー的固有名詞が頻出する。平成のサザエさんと言われながらも両者が決定的に異なるのはこのサブカルチャー的固有名詞の有無である。「サザエさん」は固有名詞を一切排除することで広くお茶の間的な普遍性を持つに至った。(中略)時代を特定してしまう固有名詞は一切使われない。ところが「まる子ちゃん」は〈あの頃〉の物語である。厳密に時代考証をすれば昭和49年頃になるはずなのだが、それはあまり問題ではない。作品中のサブカルチャー的固有名詞は具体的な時代を特定するためのものではなく〈懐かしいあの頃〉というフィクショナルな過去に物語を設定する仕掛けである。(『仮想現実批評 ―消費社会は終わらない』新曜社)

*5:http://yamamomo2.com/tibimarukotyan-sinntendelingu-dare-1427