ミクスチャーの襲来とサブカルチャーの終焉
【#026 Under Age’s Song / Dragon Ash (98年)】 の考察 /2019.04.11_wrote
97年にデビューしたDragon Ashの3枚目のシングルであり、アルバム「Buzz Songs」への収録により
名曲として認知を獲得していき、その後のブレイクのきっかけとなる曲。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。
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<ミクスチャー、襲来>
メロディアスなラップに乗せた同時代を生きる人々へ向けたメッセージと
バンドサウンドにDJを取り入れた編成。
Dragon Ashのメジャーシーンへの登場は
それまでどうしてもキッチュなものとして扱われていた
HIP HOPというジャンルをクールなものとして広めたのに加え、
CD全盛期に言わば大人によって作られるマーケティング的、戦略的音楽市場に対する
若者カルチャーの反逆にも思えた。
あらゆるジャンルを取り入れたクロスオーバーなスタイルは
日本ではミクスチャーと呼ばれその後定着していくが、
Dragon Ashがその風穴を開けたと言っても過言ではないだろう。
ストリートを呼吸して生まれる音楽。
ストリートという言葉で思い出す節がある。
遡ること数年前。
高校時代、東京ストリートニュースという人気雑誌があった。
学研が読モの走り的に高校生活のライフスタイルを取り上げながら
その一方でスーパー高校生という芸能人予備軍を作り上げるような内容で
ターゲットど真ん中世代としては、誰々が載ったとかそんな話をしながら高校生活の一部として楽しんでいた。
(時期が短かっただけに、ドンズバ世代には色濃い思い出が詰まってますね)
その後、何名かのスーパー高校生たちは文字通り芸能界入りするわけだが、
別の角度から音楽で道を切り拓いたのがDragon Ashのフロントマン、Kjこと19歳の降谷建志であった。
Under Age’s Song。
同時代のカルチャーを存分に吸い込んだカリスマが
生み出した強いメッセージと新しい音楽性は、
同世代(Under Age=未成年)の圧倒的な支持を集めていくことになる。
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<ロックの精神とヒップホップのメッセージ>
それまでの鋭く荒げた声で歌うロックから一転、
優しい声で歌い上げるライム。
さあ丘の上から見おろす景色 組織にとらわれ増えていく知識
意識の中にめばえた感情 否定の裏側にあるのは自意識
何かに追われることにも慣れ なれなれしく踏み込む大人に慣れ
薄れていくのは少年時代 ふくらみ出すのは権力社会
クールな比喩表現でやや悲観的に世界を眺めながら
「羽根のない天使」と名付けられた10代たちの想いの背中を押す。
その足で踏み出せばいい 揺るぎない翼を広げればいい
Take your time and fly high!
Be Stronger Fly Higher Don’t Be afraid
社会という(大人の)壁に行き場のなさを感じながらも
それと格闘して自分らしさを肯定するエネルギーに変える強いメッセージは、
彼がバンドとしての原体験として語るブルーハーツのような反骨精神を感じる。*1だ。
ロックの精神をベースに、
ストリート生まれのヒップホップを融合(MIXTURE)しメッセージを届ける。
それはジャンルというよりも、
Kjという人間の生きてきた過程そのものが反映された音楽のようにも映る。
Rock’n’Roll it was my adolescence
Born in a fuckin’ country
(こんなクソったれな国に生まれたオレにロックは青春だった)
Hip Hop music it’s my everything
to me it’s like a hymn
(ヒップホップは俺の全てで、それは賛美歌のように思える)
(※Freedom of Expressionより)
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<ジャンルの多様化とサブカルチャーの終焉>
その後、Dragon Ashの快進撃は続き、
MIHOやSugar Soul、ACO、イルマリ、wyolicaなど
Dragon Ashを入り口にしてfeaturingとして様々なアーティストが世に送り出されることになる。
そして、同世代のHIP HOPアーティストたちも台頭。
それまでサブカルチャーだった音楽は幅広い層に受け入れられるようになった。
サンプリングやco-write(複数名による共同作曲)など、
あらゆる音楽を取り込んで掛け合わせていくHIP HOPの考えは
今ではあらゆる音楽の世界的スタンダードになりつつある。
同時に
サブカルチャー(カウンターカルチャー)がメジャー化することで、
メジャーとアングラが混ざり合い境界線が無くなってしまったとも言える。
結成20年を超え、
もはや日本を代表するミクスチャーバンドとなったDragon Ashだが、
同世代のカリスマとして生き様を反映させながら作り上げていく音楽は
決してジャンルなどで縛られることなく進化を続けていくだろう。