ポカリCM黄金期と職人芸
【#009 いつまでも変わらぬ愛を/ 織田哲郎 (92年)】 の考察 /2018.11.22_wrote
90年代を代表する作曲家、織田哲郎のアーティストとしての13thシングル。
ポカリスエットのCMソングとして使われ、自身唯一のオリコン1位を記録した大ヒット曲。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。
*************************************************
<ポカリスエットCM黄金時代>
美少女の一過性のキラキラと夏という黄金比。
それに音楽を重ねて15秒の映像に閉じ込める。
宮沢りえを皮切りに、一色紗英、中山エミリと続くポカリCM黄金時代の幕開けである。
圧倒的イメージキャラクターに加え、
その後も
揺れる想い(ZARD)/瞳そらさないで(DEEN)/突然(FIELD OF VIEW)と続く
ビーイングのタイアップソング。(もちろん作曲はすべて織田哲郎)
この曲は
その後も長いこと続く、「ポカリ=青春」的世界観を作り出した歌といってもいいだろう。
果てしなく広がる空に、
カッコよさげなおじさんがすっと立つジャケット。
(・記憶では海だと思ってたら空でしたね。それぐらい海や夏イメージがあった曲)
表舞台で見かけることはほとんどない仕事人が
心臓発作で亡くなった兄へ綴った歌とされるこの歌が、
なぜこれほどポカリスエットCMにぴったり来たのだろう。
それはきっと、
いつか失われる(orもう失ってしまった)季節、一過性のキラキラへの憧憬を歌っているからではないか。
永遠に続く 青い夏のイノセンス
子供の無邪気さも、青春の輝きも、永遠には続かない。
それは記憶の中か、映像に閉じ込めたものだ。
ふるえるような憧れを いつか誰も忘れ去っていく
陽ざしの中のその笑顔だけは
変わらないで欲しい 心からそう思う
過ぎ去っていくもの。いつかなくなるもの。
それをどこかに閉じ込めておきたいという想い。
他界した兄へのメッセージが、過ぎ行く青春に込めたメッセージと変換される。
それが少女の一過性と過ぎ去る夏の儚さを
映像に閉じ込めたポカリCMとシンクロして、人の心を揺さぶるのだ。
いつまでも変わらぬ愛を 君に届けてあげたい。
どんなに季節が過ぎても 終わらない Day dream
*************************************************
<圧倒的仕事量/おどるポンポコリンからAKBまで>
自分が歌うための歌として「いつまでも変わらぬ愛を」を歌いながらも、
その後も表舞台にほとんど姿を現すことのない織田哲郎。
しかし、一度覚えたその名前は
その後も絶えず我々の目に触れることになる。
90年代、シングルといえば8cmのCDで、
ジャケットの紙を縦にパカっと開くと、
上半分に円盤。下半分に形を保つためだけの格子状のプラスチック
(プラモデルパーツのようなアレです)という構造だった。
余談だが、
どう考えても不必要な下半分をパキッと追って正方形ケースに収納する派と、
ジャケットを折り曲げたくないために縦長ケースに収納する派がいた。(筆者は後者)
そして、ジャケットの裏には、
大抵の場合、歌詞が書かれていて、
大抵の場合、こう、書かれている。
作曲:織田哲郎
このクレジット表記との遭遇率の高さたるや。
それまで、
CD=歌手のもの=テレビに出る有名人の創作物
としてしか考えていなかった人間に、
サブリミナル効果のようにじわじわと、
裏方としての職人としてのプロフェッショナル魂を感じさせたのだ。
おどるポンポコリン、
ZARD、DEEN、T-BOLANなどのビーイングアーティスト陣の作曲。
相川七瀬などのトータルプロデュース。
さらにはジャニーズやAKBに至るまでその仕事は多岐にわたる。
中学生ながらにその異常な仕事量に驚きを覚えた。
93年の彼の作曲したCDの売上は1000万枚超え。
まさに90年代JPOPを支えた作曲家といっても過言ではないだろう。
※このブログを書く中でwikipediaを見たところ、織田哲郎提供楽曲一覧ページがある。*1
この量・・・恐るべき職人である。
*************************************************
<有名人と職人の間>
これだけの楽曲を制作していながら
小林武史や小室哲哉、亀田誠治のように表舞台に出てこないのが織田哲郎である。
自身がいうようにそもそもテレビが苦手というところもあるのだろうが、*2
有名人でもあり裏方でもあるその立ち位置は、かなり珍しいように思う。
それでも時々はテレビに出たり、パリコレに出たり、
歌を歌い続けていたりする「有名人」でありながら、
街を歩いても気づかれたりネットで言動が叩かれたりなどの有名税が発生しない立場。
売れる楽曲をオーダーに合わせて作り続ける「職人」でありながら、
本当に自分が歌いたい歌を自分の歌いたいレベルで歌い続ける。
一時代を築きあげながら、趣味としての音楽を保ち続ける生き方は、
業界の荒波に飲まれないずに、
音楽と向き合う純粋さを保ち続けたい想いから来てるのかもしれない。
音楽というものを仕事にし続けるために。
音楽というものを趣味にし続けるために。
好きを好きでいるために。
いつまでも変わらぬ名曲を、我々に届けてもらいたい。