90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

アイドル一神教時代と確信犯

【#032 MajiでKoiする5秒前 / 広末涼子 (97年)】 の考察 /2019.06.06_wrote

国民的アイドルだった広末涼子のデビューシングルで、彼女が出演するドコモのポケベルのCMソングでもあった。
オリコンチャートは2位を記録。作詞作曲は竹内まりやが手がけた。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<アイドル一神教時代の国民的アイドル>

国民的アイドルという言葉の定義は曖昧なものがあるが、
広末は国民的アイドルだったことに異論を唱える人はあまりいないであろう。

 

クレアラシルのCMでデビューし、
ポケベルのCMでは
「広末涼子、ポケベルはじめる」と名前を冠したコピーでその存在は国民的に。
その後も高校生活や大学入学などの私生活までロックオンされ
全国民にさらされる存在など、
群雄割拠の戦国時代を迎えている今のアイドルでは考えづらい。

 

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(余談だが、高校時代、一度だけバイト先の飲食店で接客したことがある。 )

 

 

アイドル=偶像。

 

あまりに複雑で広がりすぎたアイドル界において
ざっくりとした多神教のようにグループを崇拝し、
その中で「推しメン」を選ぶことで自分の個性を主張する今の時代と違い、

この頃はまだ、時代の顔である唯一神を決めるアイドル一神教時代。


山口百恵・松田聖子・小泉今日子・内田有紀・・・
そんな過去から脈々と続く唯一神の後継者として、
期待も名声も栄光も重圧も嫉妬も批判も仕事量も
それを高校生一人が背負い切るのである。

 

そして、デビュー3年目にリリースされたファーストシングルがこの曲である

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  <気恥ずかしさと確信犯>

あの広末がCDデビュー。
果たしてどんな曲?という期待に対し、
最初の印象は「なんか意外な感じ」だったと思う。

 

90年代後半の流行りっぽい曲ではなかった。
どちらかというと少し懐かしいというか、
やや古い印象と、何より気恥ずかしい歌詞に驚いた。

 

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One, two, three, four, five!


耳元で囁くキャッチーなイントロ。

 

渋谷はちょっと苦手
ふたりで写すプリクラ
かに座の女の子

 

徹底的に「現役高校生広末」の個人にフィーチャーした歌詞。
そこに描かれるキラキラなデートストーリー。


しかしその内容は
少し前の世代のカラオケビデオのストーリーにありそうな
懐かしい匂いのするデート模様であり、
当時の流行でMK5(マジでキレる5秒前)という言葉を使っていたような
すれてしまったリアルな高校生像とは程遠い。

 

高校生である記号を存分にまぶす中に、
この気恥ずかしさ全開の歌詞を入れ込むことで
リアルな高校生と対極の「純粋な高校生広末」をより際立たせるのは
竹内まりやの確信犯によるものではなかろうか。

耳馴染みのいい楽曲と強い言葉、
そして何より広末涼子の存在感によって、
「意外」だったものは「むしろこれしか正解がないのでは?」という風に変質していくから恐ろしい。

  

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 <国民的アイドルのその後>

 

その後もCDをリリースしていた広末だが、
2000年以降CDリリースはなく、
次第にアイドルから女優として見事に変貌を遂げる。

 

もともと、演技には定評があったのだが、
世間の印象として純粋さを植え付けられたアイドルが
その殻を脱却するのはなかなか難しい。

 

大学入学と3ヶ月間の不登校。
その後の退学。
いくつかのスキャンダル。
二度の結婚と出産。

 

つくられたイメージとのギャップを
世間がおもしろ可笑しく騒ぎ立てることも数多くあったが、
そこは高校時代から想像を絶する荒波を一人で経験してきた広末である。
次第にかつてのイメージを払拭し
2008年にはおくりびとで最優秀助演女優賞を受賞するなど、
「女優広末」としての存在を確立させた。

 

さて、デビュー25年。
MajiでKoiする5秒前は恥ずかしくて歌わない*1
らしいが、

今の広末が再び歌を歌うとしたら、どんな曲になるのか聞いてみたいのは私だけではないはずだ。