90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

音楽バラエティと遊びの余白

【#006 愛は勝つ / KAN (90年)】 /2018.11.01_wrote

KANの8枚目のシングル。元々はテレビ朝日の番組のエンディング曲だったらしいが、
邦ちゃんのやまだかつてないテレビの挿入歌に起用されたところから火がつき、91年日本レコード大賞を受賞した大ヒット曲。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<やまだかつてないテレビという存在>

愛は勝つを知っている人は、
たいていこの曲もセットで知っているのではなかろうか。

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(確か本人が歌ってて絶妙なタイミングでベルトコンベアーで料理が運ばれてくる映像が
 あったと記憶してるのですが、どなたか知らないですかね?)

 

愛はチキンカツ。

 

いきなり替え歌からで失礼したいが、
音楽の話の前に、この番組について触れないわけにはいかないだろう。
「邦ちゃんのやまだかつてないテレビ」。

そもそも女性芸人(正確にはバラドル?)で、
プライムタイムに自分の名前を冠した番組を持つ人など
それ以前もそれ以降もいないのではないだろうか。
それほどまでに当時の山田邦子の存在は圧倒的だった。

さまざまなパロディコントやモノマネを交えたバラエティでありながら音楽の要素は色濃く、
大江千里、森口博子、永井真理子など、
ミュージシャンや歌える人達が数多く出演していた上に、
番組発の音楽もたくさんあったと思う。

 

当時小学生の筆者的には
歌番組じゃないのに、音楽も楽しい不思議なポジションの番組。という感じであった。

*1

 

翌日の学校ではみんなで見たテレビの曲を話題にしたりいじったり。

音楽の授業で習う歌でもない曲なのに、

小学生が全歌詞を暗記して歌いながら下校したりしていたのだ。

資生堂の化粧水もびっくりのものすごい浸透力である。

 

そしてそこにこそ、ヒット曲の生まれる仕組みがあったように思う。

 

 

 

通常の歌番組が、ただアーティストと曲を紹介して終わるのに対して、
この番組は、その音楽自体をネタとして、手を加え、遊ぶことができるのだ。

わかりやすく言えば、
その後のHEY!HEY!HEY!などがアーティストをいじることによってその魅力を増幅させるのに対し、
「やまかつ」では、音楽そのものをいじり、魅力を増幅させられるのだ。それも何週にも渡って。

 

邦ちゃんの器用さ。それを支えるアーティストたち。毎週の繰り返し。
それこそが音楽バラエティの持つ、最大の強みだろう。

 

その「いじり」に耐えられるだけの楽曲要素が、そこにある。

 

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 <シンプルさと遊びの余地>

www.youtube.com

 

 

なぜこの曲が音楽バラエティにがっつりとマッチしたのか。
歌詞のストレートさももちろんあるだろうが、
それ以上に曲の作りが
極めてシンプルかつ遊びの余地がある曲だったからと考える。

 

転調はあるが1オクターブ内で完結するメロディ。
歌詞においても、

心配(4) ないからね(5)
君のお(4) もいがー(3)
誰かに(4) 届くー(3)
明日が(4) きっとある(5)※カッコ内は文字数

 

ほとんどのパートにおいて、4文字ずつ。
つまり4分の4拍子の音符一つひとつに素直に言葉が一つずつ乗るシンプルさだ。
そこに心地よく配された5文字の言葉が心地よいリズムを作り出している。
そしてこのちょっとした遊びが肝なのだ。

 

シンプルさ+遊びの余地。

 

シンプルさが誰もが歌いやすい間口の広さを作り
時々挟まる5文字の遊びが替え歌で字余りなどのいじりポイントとを作り出すのだ。

もちろんこの遊びは
バラエティのためにある訳ではない。
シンプルさをベースにすることで強く残したいところを残すべく布石なのだ。
この曲のラストを見てみよう。

信じる(4) ことさ(3)
必ず(4) 最後に愛はか(8) つー(1)

一番メッセージを伝えたいところが、8文字。
見事に一番ルールを外れているのだ。

 

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 <そもそも、愛は何に勝つのか

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愛は勝つ。

強くて、短くて、王道感がある言葉である。

 

当時小学生だった筆者も
愛が何かわからないどころか、
場合によっては漢字すら書けなかったかもしれないくせに、
漠然と「愛は勝つんだなぁ」と思いながら声に出してこの歌を歌っていた覚えがある。

 

だけど、そもそも愛は何に勝つんだろう?
勝つといっても、百戦錬磨で無敵というわけではなさそうだ。

 

途中は

・困難でくじけそう

 になるわけだし、

・求めて奪われて与えて裏切られ

ることもあるのだ。

 

それまで結構な数の負けを繰り返している可能性も否定できない。
だが、それを負けと認めないだけの話なのだ。
認めなければ、
もっと言うと、信じていれば、勝つのだ。…最後は。…必ず。

 

つまり、
「愛は勝つ」を翻訳するならば、
「君の愛は今回もその次もダメかも知れないけど、諦めないで信じ続ければいつか誰かに届く日が来るよ」ということになる。

でもそんな言い方じゃやっぱりダメなのだ。

 

 

SPITZの正夢にこんな歌詞がある。

 

愛は 必ず 最後に勝つだろう
そういうことにして 生きてゆける
*2


愛は勝つ。
そういうことにしておくものなのだ。

 

 

 

*1:Wikipediaによればこの音楽バラエティというコンセプトが「夢がMORI MORI」「うれしたのし大好き」に受け継がれることになったとのこと

*2:草野正宗とKANは同じ高校で、このアルバムのspecial thanksにはKANがクレジットされている