太宰的屈折と吉井流色彩感
【#005 SPARK / THE YELLOW MONKEY (96年)】 の考察 /2018.10.25_wrote
派手なメイクや出で立ちにも関わらずいわゆるビジュアル系とは一線と画した存在だったイエモン。
その10thシングルにして、それまでのオリコン最高位である3位を獲得することになる曲。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。
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<バンド名に見る屈折したかっこよさ>
90年代全盛のビジュアル系バンドの名前と言えば
ある種中二病的なというか、
寂れた歩道橋にグラフティで描かれそうなネーミングが多かったように思える。
各アーティストそれぞれ想いはあるのだろうが、
ざっくり言ってしまうと、「カッコつけました」と言うネーミング。
(10代にとってそれはそれでもちろんかっこよかったのですよ)
そこに対して
バンド名からして、THE YELLOW MONKEY。黄色い猿である。
黄色人種への皮肉を自らバンド名にするこのセンス。
自虐を「ダサい方がカッコイイ」みたいに変える強烈な個性を放っていた。
そこへ、この曲である。歌っている内容自体がすでにセックスである。*1
君とスパーク 夜はスネーク
なんて歌っていて成立しちゃうカッコよさなんてなかなかない。
そう。イエモンのかっこよさにはいつも艶っぽさがついて回る印象を受けたのだ。
それは「抱かれたい男」的なセクシーさではなく、
むしろ逆に、人間の「ダメやカッコ悪い」と向き合った太宰的な魅力。(恋愛とは恥ずかしいものである by 太宰)
ド派手で奇抜な格好をしながらも
他人からの見た目でない本質的なところに現れるカッコよさをすくい上げる
この屈折したカッコよさを
THE YELLOW MONKEYのネーミングはすでに体現していたように思えるのだ。
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<太宰的ダメンズの恋愛ソング>
その屈折感から来るのか、
イエモンの曲はいつも恋愛ソングなのに、他のビジュアル系とはやはり違っていた。
なんというか全体的に矛盾を孕んでいて、儚げで不安定な印象を覚える。
少し具体的に歌詞を見ていこう。
・確かめたい 生きていたい
・絶望の花が咲き乱れても
・命は生まれいずれ消えゆく
・暗闇の中すがりつくように
歌詞の随所に漂うデカダンティスム。マイナーコード感の強い進行。
セックスを歌うにしても、ただの男女がどうしたという話ではない。
(そもそも普通のアーティストだと、その手前の「君を抱きしめたい」くらいで終わるところだが)
感覚的にいうと、もっとだいぶドロッとしている。
その感じが「性」というよりも「生(あるいは死)」を連想させるような歌詞だ。
だらしさなさ・恥ずかしさ・汚らしさ・弱さ・不純さ。
そういうものにきちんと目を向けて向き合うカッコよさ。
その上で愛を求める人間の根源的なラブソングなのだ。
そこに求める愛はもはや男女の愛を超えてもっと大きなもののようにすら思える。
・真実を欲しがる俺は 本当の愛で眠りたいのさ
・永遠なんて1秒で決まる 永遠なんていらないから
弱くって、だらしなくって、不純で、カッコいい。
その矛盾こそが、やはりイエモンなのだ。
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<違う絵の具で色を塗るように>
その派手な出で立ちも相まって、
イエモンの世界観はいつも色で溢れている。
しかし筆者が衝撃を受けたのは、歌詞における色づかいである。
事実、この曲のサビ前(are you ready to sparkの直前)には、
強烈にイメージを作り上げる色彩が配されている。
・頭の中で絶望の花が咲き乱れても
・暗闇の中(中略)「血」が巡るのを確かめている
頭の中に広がる、「花」。
暗闇の中に巡る「血」。
どちらもサビに突入する前に、パッと強烈な色が広がる構造になっている。
この手のフレーズは他の歌でも散見される。
全編重く暗いJAMのような色彩感のない歌においても、
この世界に真っ赤なジャムを塗って(JAM)
といった具合に暗い印象の世界の中に強烈な赤の印象を残す。
(むしろここを引き立たせるための全体である可能性が高い)
さらに驚きなのが、その色彩の捉え方だ。
・「銀色」の大空に( SPARK)
・赤い夕日を浴びて「黒い」海を渡ろう(楽園)
・夜は「薄紅色」の夢を見て(BURN)
吉井和哉の目に映っているのは、
青い空や、黒い空ではない。
空を描くときに彼がとった絵の具は、銀色。なのだ。
通常の人と違う色で世界を塗っていくことで、
どんな形容詞よりも強烈に、これぞイエモンという世界観を文字通り彩るのだ。
復活後も、イエモンが描く世界は独特の輝きを放ち続けている。
*1:Wikipediaによる