小室哲哉、年間チャートへの布石
【#002 DEPARTURES / globe (96年)】 の考察 /2018.10.04_wrote
小室哲哉が自ら参加したユニット、globeの4枚目のシングルにして初のバラード曲。
91年より始まったキャンペーン、「JR ski ski」に4年間にわたるZOOから引き継いで使用された爆発的ヒット曲。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。
*************************************************
<小室哲哉、年間チャートへの布石>
trfを大成功に収め、
篠原涼子、hitomi、浜ちゃん、華原朋美、内田有紀と次々幅を広げて行きながら
稀代のヒットプロデューサーとなった小室哲哉。
globeの登場はまさに脂の乗り切った彼が自ら参加する「大本命ユニット」のデビューだった。
それは、
誰にでもバラエティー豊かにヒット曲を書いてきた小室哲哉にとって、
他のアーティストと音楽性のすみ分けをしながら
ひとつの音楽性でglobeらしさを構築しヒットを捕まえにいくという難易度の高い挑戦である(ように思われた)。
デビュー(95年)して
8月「Feel Like dance」、9月「Joy to the love」、11月「SWEET PAIN」。
休む暇なくリリースしていくことでTMN時代から進化したglobeサウンドのアイデンティティを定着させていき、
翌年、ダンスサウンドとは一線を画する渾身のバラードをリリースする。
それがこの曲、DEPARTURESである。
globe / 「DEPARTURES(from LIVE DVD globe the best live 1995-2002)」
初のメンバー顔出しジャケット。
JR ski skiのタイアップ。
そして、1月1日発売。
前年(95年)、ダブルミリオンを記録しながらも
年間チャートで「LOVE LOVE LOVE」に破れ惜しくも2位だった
「WOW WAR tonight ~時には起こせよムーブメント」を考えてみれば、
全てが年間の売上に加算される元日リリースは、
自らが参加する「大本命ユニット」の大本命曲として、
年間チャートまでを見据え万全を期したリリースだと言えるだろう。 *1
*************************************************
<難易度の上がるKEIKO、難易度の下がるMARC>
当時驚いたのはKEIKOの表現力。
演歌のような世界観に、こぶしを効かせたようなハリのあるボーカルは、
それまでダンスサウンドを高音で器用に歌っていたイメージを一変させた。
この曲を皮切りに、
初期は5:5くらいのバランスで歌っていたKEIKOとMarcの配合率が7:3くらいになる。*2
このカフェオレからカプチーノのような味覚変化によって、
より全面に強く押し出されるKEIKOのボーカルとは対照的に、
マークのハイテンポな英語のラップは、日本語とハイブリッド化しペースダウンを余儀なくされる。
皮肉なことに、
この曲のヒットによりTMN時代から進化したダンスサウンドの追求によることで生まれた
当初のglobeサウンドは、次第に影をひそめることになるのだ。
その結果
カラオケにおいてMARCのラップパートへの参入障壁が下がり、
男子が女子と一緒に歌を歌いやすくなるという副作用ももたらしたが、
(楽曲的評価は別として)その後のglobeが、シングル5枚を入れたこの1stアルバムを売上で超えることはなかった。*3
(初の顔出しジャケット)
*************************************************
<具体的歌詞の唐突さ>
それにしてもなんとなくわかったようでわからない歌詞である。
おそらくこの曲も、
新幹線のタイアップ曲ということで
「DEPARTURES(旅立ち)」を男女(おそらくは男から別れていく女)の「旅立ち」に変換して生まれているとは思うのだが、
過去形と現在形が未整理のまま混在していて、いつが過去でいつが現在なのかすら曖昧な感じがする。
きっとそれは、
意識的に構築されたレトリックというわけでもない(ように思える)。
それでいて、曲の醸し出す雰囲気は何となく理解出来る。
おそらく、楽曲優先でありながらそこに独特の感覚で歌詞を置いていく小室哲哉の日本語観なのだろう。
そしてそれこそが作詞家:小室哲哉の凄さだと思う。
極めつけは、ここだろう。
前髪が伸びたね 同じくらいになった
左利きも慣れたし 風邪も治った
2番のサビ終わりから感想を挟んでCメロの部分。
寒さと会いたい会えないの感情論で構成される歌詞の中に、突如入る具体。
前髪?左利き?風邪?えっ!?なんのこと?
aikoやDREAMS COME TRUEが、
物語的歌詞構造で男女のドラマが丁寧に進行していくのに比べ、
小室哲哉の歌詞は、
断片の寄せ集めから足りない中心を想像させるような特徴があると思う。
だからこそ、音楽と相まって強く残る歌詞である。
かくしてこの冬、この曲は
どこまでも果てしなく売れ続けたのである。