バブル後期世代は、てけててーん♩で走り出す
【#001 ラブストーリーは突然に / 小田和正 (91年)】 の考察 /2018.10.04_wrote
「カーンチ、セックスしよ」で一世を風靡しその後の月9神話を作り上げる先駆けとなるドラマ、
「東京ラブストーリー(脚本 坂元裕二)」に使用されドラマとともに大ヒットとなった、言わずと知れた、名曲である。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。
*************************************************
<すべては、てけててーん♪で動き出す>
まず、てけててーん♪である。
当時日本で一番流れたであろうこのイントロ。
それは音楽の始まりという機能だけではなく、
ドラマタイアップにおける楽曲の出だしのあり方を決定づけたと言っても過言ではないと思う。
それは映画撮影における監督の「Action!」のように、
100m選手におけるスターターの号砲のように、
トレンディードラマを、よりトレンディーでよりドラマティックに加速させるのだ。
・カンチがひと言セリフを言って、てけててーん♪
・リカが、振り向いて、てけててーん♪
・走り出して、てけててーん♪
・抱き合って、てけててーん♪
・ロン毛の遊び人が現れて、てけててーん♪*1
さらにそれはトレンディードラマ憧れ層の10代にも同様に作用する。
・隣のクラスの奴が告白して、てけててーん♪
・廊下を走って、てけててーん♪
・帰りの会で、てけててーん♪
・・・そう。
このイントロは全ての人々を物語の主人公化する。
物語は、てけててーん♪で動き出すのだ。
*************************************************
<若者向けドラマに突如現れたオーバー40歳>
もう一つのスゴさが、この若者向けドラマのタイアップに、小田和正を起用したことだろう。
91年。
一つ上の世代の音楽番組が終わり*2
小学生の私はまだポップスをかじり始めた世代。
ヒットを飛ばす人が全て新しい人に思えた頃である。
そんな中、彗星の如く現れたオーバー40のおっさん・・・それが小田和正である。
不勉強と言われればそれまでだが、私が小田和正を知ったのは、この曲が最初である。
親がコアな音楽ファンでない家庭に育った私としては、
年間チャートに引っかかったことのないオフコース*3
も知る由もない訳で、
実物の予想外のベテランっぷりに
8cmシングルのジャケットの姿よろしく、ズコーっと思っても無理はない。
(こんな感じでズコーってなる)
*************************************************
<サビの直球、変化球>
具体的に、曲の中身を見て行こう。
高校時代。友人とある日、こんな話をしたことがある
私「『あの日あの時あの場所で』って、あの歌詞、160kmの直球ど真ん中みたいな歌詞だよね」
友「そのど真ん中を見つけて書けるってのがすごいよね」
・・・確かに。と思った。
あの日、あの時、あの場所で・・・、
まるで英語で言う5W1Hの答えを埋めていくようなサビの始まり。
ど真ん中なストレートを3球連続で畳み掛けるようなこのつくりは意外と書けそうで書けない。
というよりも書くのにとても勇気がいる(と思う)。
普通は丁寧なコースを突いたり、変化球を混ぜたりするものだ。
ただ、それだけに、ここぞという時にものすごい威力を発揮するのだ。*4
ただ、この歌のサビは、直球から一転、技巧的レトリックに切り替わる。
君に会えなかったら
(中略)見知らぬ二人のまま
意味をたどれば、
「会えたから、知り合えた」というだけのことである。
だが、
・もし〇〇でなかったら(If I were not~)
・〇〇することはない(we don’t know each other.)
という具合に、実に回りくどい言い方。
「仮定法」と「二重否定」が入る高校受験の入試問題のような構文だ。
あれだけストレートの歌詞から一転、
逆説、逆説、というような話法に変わるのだ。
そして、侮れないのがサビの最後。
まま!
・・・である。
最後に一番強調される曲の印象が、「まま!」なのである。
「あなた」とか「愛してる」とか、意味のある単語ではない。
未然形を表す「まま!」である。
突然始まるラブストーリーでありながら、
11週間成熟に至らないトレンディードラマを意識して書かれたと考えるのは考えすぎだろうか。
とにもかくにも、
ラブストーリーはてけててーん♪で始まり、まま!で終わるのだ。