義務教育と大人の恋愛
【#024 STEADY/ SPEED (96年)】 の考察 /2019.03.28_wrote
「BODY & SOUL」で衝撃のデビューを果たした沖縄アクターズスクール出身ユニットSPEEDのセカンドシングル。
当時12-15歳だった彼女たちながら、デビューから2作目でミリオンセラーを記録した。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。
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<義務教育×大人の恋愛>
96年、「BODY & SOUL」でデビューしたSPEED。
今井絵理子、島袋寛子、上原多香子、新垣仁絵。
12歳~15歳でのデビューである。
沖縄アクターズスクールがここまで若い子を送り込んできたという形で
デビューそのものが話題性に富んだものだったが、
楽曲自体はダンスを全面に押し出したもので、
「この若さでここまで踊れる」をアピールする自己紹介的楽曲だったように思う。
そこから、3ヶ月でリリースされたセカンドシングルのがこの曲、「STEADY」である。
前作から一転、
R&Bをベースにしたミディアムナンバー。
やさしいあつかいじゃ 物足りないよ
あの娘にしてるみたいに きつく抱いてほしい
彼女がいる男性に対して、ステディになりたいという、
ハイティーンから20代女性(と思える)世界観をローティーンが歌い上げる。
若年アーティストにおいて「少し大人視点での世界観を描く」方法は
年下や同世代には憧れとして、
年上には少女性と大人になる過程の危うさや繊細さを際立たせる効果的な手法として
昔からアイドルに対してよく使われてきた。
しかしあまりに実年齢とのズレがありすぎた場合、
当人たちとは距離感が離れすぎて見え、
子役があまりに板についていない大人の台詞を読んでいるような印象になってしまう。
義務教育と大人の恋。
ともするとちぐはぐになってしまいそうな
そのギリギリの距離感を成立させるのは彼女たちの実力に他ならない。
ブラックミュージックのグルーブにきちんと乗せるダンス。
歌詞に感情をきちんと重ねるボーカル。
そして、高音のファルセット。
各々が表現者として自分らしさを主張する大人顔負けのパフォーマンスは、
このグループがただ低年齢化の波にのってデビューするだけのアーティストとは
完全に違うものであることを示していた。
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<おじさんの描く少女の純粋さ>
この曲のヒットから、
瞬く間にSPEEDは女性たちの憧れるアーティストになった。
そこで忘れてはいけないのが
一躍有名プロデューサーに名を連ねることになった伊秩弘将の存在だろう。
痛いこととか 恐がらないで
もっと奥までいこうよ いっしょに(BODY & SOUL)
と、小・中学生に歌わせるにはギリギリの歌詞でドキリとさせたり、
何が一番大切か
今はわからないまま踊り続けてる
(Go! Go! Heaven)
のように、トップアーティストになった彼女たち自身の
想いに見えるような歌詞を入れ込んだりと、
「彼女たちが歌うことでどう見えるか」を巧みに計算した歌詞は
80年代後半から作曲家・作詞家として活動をしていた伊秩の戦略だろう。
しかしやはり真骨頂は、
女性たちの共感を作り出したラブソングだと思う。
かけがえのないあなたの
かけがえのない人になっていきたい(STEADY)
もしもアタシが彼女だったら すごくいいよ
とことん 尽くしてあげられるのに他のどんな娘よりも
(熱帯夜)
果てしない星の生命のように
くじけそうになっても ずっと愛し続けるよ
(WHITE LOVE)
歌詞を羅列すると赤面してしまうくらいの純粋さ。
女性だったら、こんな発言は、なかなか気恥ずかしくてできないのではないか。
場合によってはそれは男都合の歌詞とも言えるが、
33歳が20コ近くも歳の離れた人におじさんとして書くことで
「女性とはこうあって欲しい像」が純粋な形で集約されていることが、
多くの共感を生み出すことになったのではないだろうか。
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<時代を駆け抜けたSPEED>
その後も映画出演や24時間テレビのメインパーソナリティを務めるなど
一躍時代の寵児として活動していたSPEEDだったが、
1999年に解散が発表され、2000年、解散。
わずか3年半。
11枚のシングル、6枚のアルバムをリリースし、
全期間が全盛期と呼べる濃密な時間であった。
そこから20年余り。
2000年代に待望論もあり二度復活し、活動をしたが、
現在は自然消滅状態。
どちらかというと「お騒がせ」的なニュースで見かけることの方が増えたのは事実だ。
小・中学生たちだった彼女ももう30代半ばである。
しかし、まだまだ30代。
時代を駆け抜けたSPEEDは速すぎたのかも知れないが、
彼女たちでしか経験できなかった
あまりにも短すぎた濃密な時間を財産に、
それぞれ魅力的な人生を生きていってほしいものだ。