90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

女性アーティストにおける一人称の「ぼく」の効能&楽曲5選

【interlude #004】

このブログでは主としてシングル曲(1曲)ごとに記事を書いているが、
今日は女性アーティストの歌詞における「ぼく」の役割について書いてみたい。

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<女性アーティストにおける一人称「ぼく」の台頭

 

昨今のアイドルソングは、やたら一人称が「ぼく」な気がする。

そもそも誰がやり出したのだろう。
女性シンガーにおける一人称、「ぼく」。
男性目線の歌を歌うというのならばわかるが、
J-POPにおいては多くの女性シンガーがそれ以外の時でも
主語を「ぼく」として歌っている歌が数多くあるように思う。

 

無論、90年代に始まったことでないのは確かだ。
中島みゆきや山崎ハコだって歌っているし、
もっとその前から主語を「ぼく」にした女性ボーカルはきっとあっただろう。
それでも、大衆性を獲得しだしたのは90年代以降な気もする。

 

そもそも、男性(オレ・ぼく・私)に比べ女性は
一人称に乏しくアーティストや歌詞の主人公の性格づけを主語によって作るのはなかなか難しい。
「私(わたし)」を「あたし」で表現するaikoなどはいるが、
それも「私(わたし)」の変化バージョンであり、
ほとんどのアーティストの歌が、「私(わたし)」を主語に「あなた」をどうしたこうしたという形に落ち着く。

 

「あなた」

なぜこんなに「ぼく」が増えたかを探るヒントはむしろこちら側、二人称の方にある。

 

昔読んだ記事なので記憶は曖昧だが、
GLAY全盛期の90年代中盤、80年代のBOOWYと歌詞を比較する記事があった。

 

簡単にまとめると、
BOOWYの影響を受けて音楽を作っているGLAYだが、
「オレ/お前」という歌詞で歌うBOOWYに対し、
GLAYは「わたし/あなた」という歌詞世界を作り込んでいる。
女性に対する扱いの時代変化にともない、「お前」から「あなた」に変わっているのだろう。
というような考察だった。

 

 

女性視点でも同じような変化はあるのではないだろうか。
「わたし/あなた」という構図はもちろん普遍的なものだが、
女性が社会に台頭してくるにつき
「あなた」と言う言葉によそよそしさとが混ざるようになり、
もっと対等な関係での距離感を縮めたい二人称として「キミ」という言葉が増え、
その結果一人称「ぼく」が増えていったのではなかろうか。

 

「わたし/あなた」から「ぼく/キミ」への変化。

 

そんなことを踏まえながら、
90年代ヒットソングにおける
女性アーティストの一人称「ぼく」たちを見てみると、
「ぼく」がもたらす様々な効能が垣間見えて面白い。

 

 

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  <勝手に選ぶ一人称「ぼく」曲5選とその効能

 

01/「SEASONS」浜崎あゆみ 00年

  ◉共感を生む近しい距離感の「ぼく」


浜崎あゆみ / SEASONS

僕らは今生きていて
そして何を見つけるだろう

(動画は一番のみのため該当する歌詞はでてきません。悪しからず)

 

一人称「ぼく」の代表格とも言える浜崎あゆみだが、

意外なことに初期のヒット作郡には「ぼく」は登場しない。

LOVE〜Destiny~に至るまでは「わたし/あなた」
「TO BE」(君がいるなら〜どんな時も笑ってるよ)で二人称に「君」が登場し、
次の「monochrome」においては「わたし/君」という具合に見事な変化し、

シングルにおいてはBoys&Girlsが「ぼく」登場である。

 

この曲は文字通りboysとgirlsで主語が入れ替わるので正確には女性を歌った一人称かは怪しいのだが

徐々に歌姫として君臨する過程で、

恋愛における「憧れる関係」から「対等な関係」への距離の変化が
一人称の変化に集約されていると言ってもいいだろう。
「ぼく/きみ」という近しい距離だからこそ生まれる不安や迷いが10代の共感を呼ぶ歌詞になったのかもしれない。

 

 

02/「Hello, again〜昔からある場所」MY LITTLE LOVER 95年

  ◉男女恋愛を脱色させるユニセックスな「ぼく」


My Little Lover「Hello, Again 〜昔からある場所〜」

 

痛む心に 気がつかずに 僕は一人になった

 

MY LITTLE LOVERもまた、一人称「ぼく」がよく似合うアーティストだ。
小林武史が加入する前の男女の2人編成だった初期においては特に。
ユニセックス具合がちょうどいいのだろう。


AKKOの声質もあるが、
「ぼく/きみ」で描かれる世界が、
恋愛ものを歌っていても変にドロドロした感じがせず、
男女2人ユニットでありながら爽やかで良質なポップの世界を作り上げている。

 

03/「ZOO〜愛をください〜」蓮井朱花 00年

  ◉逆境と戦う芯の強い「ぼく」

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僕達はこの街じゃ 夜更かしの好きなフクロウ
本当の気持ち隠している そうカメレオン

 

カバー曲だし、作詞した辻仁成も歌っている曲ではあるのだが、あえてドラマ主題歌の菅野美穂演じる蓮井朱花版を。
これほどまでに「ぼく」を歌って似合う女性はいないだろう。
困難に負けず、風が吹いても、嵐が来ても、めげずに立ち向かう若い女の子の姿。
ジブリ映画を始め日本のアニメでよくある若い女の子の主人公が、数々の困難に立ち向かうあの感じ。

と言ったらわかりやすいだろうか。
90年代の菅野美穂といえば、深津絵里と並びドラマにおいて「とにかく(仕事も恋愛も)大変な状況になるのだが頑張る存在」の代名詞的存在だったと思う。
その芯の強さは「わたし」じゃ表せない。やっぱり一人称は、「ぼく」なのだ。

 

04/「だってそうじゃない!?」LINDBERG 92年

  ◉大人になり切れない存在としての「ぼく」


リンドバーグ だってそうじゃない

 

ボクのキズは誰のものでもない
だから
君のキズも誰のものでもない

(動画は一番のみのため該当する歌詞はでてきません。悪しからず)

 

この曲はAXIAのCMだったと思うが、進研ゼミのCMの音楽を担当していたこともあり、
当時、学園モノや学校生活とLINDBERGの相性は抜群であった。


そして学校や青春という場において、「ぼく」という主語は大きな効能を発揮する。
まだ大人になりきれず、恋愛にも照れがあり、女性という武器を使うのにも抵抗がある。
少し男性と混ざってワイワイしたりする恋愛と友情の間のような、
過渡期の女性心理を「ぼく」という主語はよく表しているように思う。


青春=10代=ぼく。
その感覚は90年代を超え2000年代に入っても
チャットモンチー、whiteberry、ZONEなどに脈々と受け継がれていくのだ。
(YUKIもJUDY AND MARYでは「わたし/あたし」だったがソロになってからは「ぼく」を発動している)

  

 

05/「空と君のあいだに」中島みゆき 94年

  ◉弱き者の立場に寄り添う弱き者としての「ぼく」


空と君のあいだに / 中島みゆき (Cover) [高音質] フル

 

 

君が涙のときには 僕はポプラの枝になる

 

大ドラマ「家なき子」の主題歌として書かれたこの曲。
ドラマに登場する犬目線の歌詞ということで、
正確にいえば女性が一人称を「ぼく」とする今回のセレクトとは趣旨が少し異なるのだが、
女性が歌う「ぼく」として外すことができないなと思い最後に。


これまでセレクトした、「ぼく」の、01から03。
つまり、共感性がありユニセックスであり逆境に立ち向かう要素が織り混ざりながら、
弱者に優しく寄り添う犬としての「ぼく」。
健気でいて、献身的な愛を感じさせそれでも狂気を持ち合わせている
この「ぼく」を歌えるのは彼女ぐらいしかいないだろう。

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