90sJPOP文化論

~90年代に10代だったオトナたちへ 90年代にヒットした曲を具体的に取り上げながら、音楽的側面と言うよりもむしろ、時代・文化的な側面から雑考するブログです。

笑顔とテヘペロの自己主張

【#012 Eyes to me/彼は友達 / DREAMS COME TRUE (91年)】 の考察 /2018.12.20_wrote

ドリカム9枚目のシングルにして、オリコンチャート初の1位を記録したこの曲。
歌詞の中の「SMILE」をキーワードに展開されたフジカラーのCMのタイアップでもあった。
この曲が、当時の10代にどのように映ったのかを考察してみたい。

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<14歳のSMILEと25歳のSMILE

 

こっち向いて笑って
照れないでSimle, Smile, Smile

 

伸びやかなボーカルと、爽やかな世界観が広がるこの曲。
文字通りドリカムの人気を決定づけることとなった曲だが、

人気に火をつけたのは、このCMだろう。

 

www.youtube.com

 


当時宮沢りえ、牧瀬里穂、とともに3Mとして
人気を博した観月ありさ。

タレント×いい歌。
シンプルなCMだ。
そもそも「伝説の少女」である。ややこしい話など必要ない。


「SMILE」をコピーに、
観月ありさの「SMILE」と吉田美和の歌う「SMILE」が重なり、
タイアップとしては完璧なまでに歌の存在感が強く残る。
SMILEの印象が強く、当時この曲のタイトルを正確にEyes to meと覚えている人は少なかった。

 

それにしても、観月ありさ、14歳。
なんとも純粋な笑顔である。*1
そんな観月ありさにぴったりのSMILEイメージが、
ちょうどその頃テレビでも見かけるようになった
DREAMS COME TRUEのボーカル本人にもまさにぴったり当てはまるのだ。

 

吉田美和。25歳。

 

曲の印象そのままに。
とにかく、大きな口を開けて、笑顔で、伸びやかに歌う人だなぁ。
という印象だった。

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(そういえば、TIMEの表紙を飾ったりもしましたね)

 

そして、
そんな彼女をフロントに二人の男性が支える編成。
歌の中に出てくるさまざまな恋愛模様をそこはかとなく感じさせるような不思議なトライアングル構造は、
のちに「ドリカム編成」という言葉として音楽の域を超え一般化するほどの影響力であった。

 

 

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 <吉田美和の歌詞世界>

 

ドリカムの歌詞世界は新鮮だった。

 

難解で複雑な抽象性を繰り広げるでもなく、
散文的にさまざまな想い情景を散りばめるのでもなく、
基本的に、ひとつのシーンを(一回のデートとか)を平易な言葉で丁寧に描き出す。

 

青いシャツを着てから出かけて写真を撮るこの歌も、
一見するとなんの変哲もない日記的歌詞になりそうなのだが、

 

情景と感情/自分の想いと相手の視点/広がる景色と小さな変化。

 

この自由な往来により、
ひとつのシーンを多面的に描き出し
目の前の情景を圧倒的に豊かなものに変質させてしまうのだ。
*2

 

 

この自由な視点移動により、
「サラダを買う」「久しぶりにコート着て彼と別れに行く」
「桜散る中彼が車で去って行く」「幼馴染と出かける予定を組む」
というなんの変哲もないシーンが、輝きだすのだ。
*3

 

加えて、
そこに描き出す人間模様をより生き生きとさせるのが、
彼女のチャーミングな人間性だ。

 

例えば、恋愛のワンシーンがあるとして、

「彼にはどんな風に映ってるのかな的な視点」や
「ちょっと照れるような純粋さ」で
「一歩下がったよくできた女性」なフリをしつつも、

 

ホントはあなたも知ってたはず
最初から私を好きだったくせに(うれしい!たのしい!大好き!)

 

リビングのカーテンはこっちが折れるわ
“半分だけ”好きなの掛けてあげる(DA DIDDLY DEET DEE)

 

という具合に
「テヘッ」って言いながらズカズカ踏み込むエゴが加えられることで、

ただの聞き分けのいい女だけじゃない、人間らしい愛敬が見えてくるのだ。

 

普通にいたらただの嫌なヤツである場合も多いのだが、

このユーモアを持った人間味というスパイスによって

恋愛に胸ときめかせる女性の

心の中でガッツポーズをしているような、
「はしゃいでる感じ」まで描きあげるのが吉田美和の恐ろしいところである。


もちろん、
シンプルで伸びやかなこの、Eyes to meも、

あなたのアルバムの一頁 私に 

今日はさせてプロデュース!

 

「テヘっ」て感じでなかなかの自己主張である。

 

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 <20%オフの優しさ

当時、CDシングルといえば
歌が2曲にinstrumentalなんてカッコつけて記載した
カラオケバージョンが入ったりしているというのが関の山だった。
1枚、1000円。
当時小学生だった筆者にとってはなかなかの高級品だが、
それが100万枚とか売れたりするのだから、すごい時代である。

 

そんな中、ドリカムのシングルは800円だった。

 

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CDショップ(というか、本屋に併設されているCDコーナーみたいなところ)に
ずらりと並ぶ新譜のジャケットの中に、
「20%OFF。」のシールが貼られているようなものだ。

 

大人にはさほど関係ないことかもしれないが、
お小遣いやお年玉を駆使して、
大枚をはたくにふさわしい、後悔しないものを買おうと考えていた筆者にとって、
この800円はありがたかった。

 

他には確か、米米CLUBも800円だった気がする。
(レコード会社が一緒とかではなさそうです)

 

あとは、特殊なケースとしては
Mr.Childrenの「花 -Mémento-Mori-」が500円でした。(一曲入り)

 

誰の発案や戦略によるものかはわからないし、
小・中学生の売り上げなどさほど関係ないのかもしれない。

しかし、君がいるだけで(92年)/LOVE LOVE LOVE(95年)
というように、90年代に年間チャート1を記録した二つのアーティストが、
800円シングルだったことは
音源の価格自由化に向けた挑戦だったのかもしれない。

 

  

 

 

*1:観月ありさは実に8年もフジカラーのCMを続けることになる

*2:感覚的には、中央高速を走っているドライブのワンシーンを、気持ちと景色の動きをシンクロさせて描く歌詞が印象的な「中央フリーウェイ」などを書いている松任谷由実の歌詞に近いかも

*3:そしてこの感覚は、aiko、いきものがかり、絢香といった人々に脈々と受け継がれているように思える